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『天使のナイフ』 薬丸岳 講談社

 第51回江戸川乱歩賞受賞作品。まあそれがこの本を手に取るきっかけになったわけではないのだが、これもやはり本屋店員の手書きPOPに引き寄せられたのだ。先日の雫井脩介の一件もあったので素直にオススメPOPに従ってみようかなと。そしてこれまた大正解でした。さすが本屋(笑)。
 
 主人公の桧山は独りで4歳の娘を育てるお父さん。3年前、当時13歳の少年3人に妻を刺殺された経緯を持つ。13歳ということで逮捕・刑罰という形ではなく、補導・児童相談所へ通告という形で罪には問われない。少年のプライバシーの観点から被害者側である桧山には、少年がその後どうなったのかのみならず、名前や住所など何の情報も教えてもらえず、納得のいかない日々を送っている。
 
 事件から4年近く過ぎた頃、当時の事件の捜査にあたっていた刑事が桧山のもとを訪れ、加害者だった3人のうちの1人が刺殺されたことを聞く。犯人の少年に恨みを持っていた桧山は容疑者として挙げられてしまう。本当の真実を探るために桧山は残る2人の少年を探し始める…。
 
 あらすじはこんなところだが、作品のメインには「少年法」が取り上げられ、何の罪もないかけがえのない命を奪われた被害者側の無念と、少年のプライバシーと未来を守るための現在の日本のシステムの、両方の言い分がバトルを繰り広げている。物語は桧山の視点で進んでいくので、読者としては桧山の肩を持つ立場となるのはしょうがないけれど、少年法の言い分だって正論であって、現在そのどちらの立場でもない私としては葛藤しながら読んでいた。
 
 少年法に関する紹介や記述などが続くところがあって、社会派小説のようでこのままツマラナイ終わり方をするのかなと思っていたら、予想はいい方へ大きく裏切られた。本の中盤で事件は一段落したように思ったら、そこから怒涛の展開で物語は進んでいき、どんでん返しやら、序盤のちょっとした伏線の取り上げやら、「お前もか!」的裏切りやらで、子供たちのスイミングの引率中に読んでいたのだが、スイミングが終わって子供たちが着替えを済ませたのにも気づかずに読みふけっていた(笑)。
 
 いや~、何度も言うけどさすが本屋さんの紹介だけある。これからは店員にオススメの本をアドバイスしてもらうのもいいかもしれない。いや、本屋スタッフは今後、八百屋や魚屋のようにオススメの商品をお客さんに勧めるような店頭営業に力を注いでも良いのではないだろうか。もちろん本屋スタッフの個人技にもよるだろうが、少なくとも私がよく行く本屋のスタッフのオススメ本はすべて読んでみたいと思う。

『新参者』 東野圭吾 講談社

 最近文庫本になったので購入。加賀恭一郎シリーズ。舞台は東京日本橋の旧い商店街。昔のおもちゃや駄菓子屋さん、老舗の店が並ぶ。大阪で言うと松屋町筋みたいな商店街のイメージかな。東野作品では同時期に『麒麟の翼』でも日本橋が舞台になった。あれも加賀恭一郎シリーズだった。下町の人情が加賀恭一郎シリーズにぴったり合うのだろう。それとも単純に作者のマイブームなのか。
 
 日本橋で起こったひとつの殺人事件。それを最近日本橋に配属になった所轄の刑事である加賀恭一郎と本庁の刑事が捜査するわけだが、通り一遍等な捜査をする本庁の刑事とは反対に、地道に地元の人たちと交流する加賀恭一郎。固い結束力にも似た下町の人情に新参者として取り入ることによって、捜査の足かせとなる謎を一つ一つ丁寧に解いてゆく。
 
 物語の構成が連続テレビドラマのようになっていて(現にドラマ化済み)、一話ごとに地元の人々との交流があり、下町故に存在する謎や誤解を解決しながら親交を深めてゆく。一つ一つは一見、殺人事件とは関係無いように見えるのだが、それぞれがしっかりと終盤に向かって生きてきて事件解決となる。しかも事件を解決するだけでなく、それに関わった人々の心の傷や誤解まで解決するあたり、いかにも加賀恭一郎シリーズである。
 
 最後の加賀恭一郎のセリフがイイ(笑)。

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大人の水疱瘡? 顛末記

 10月6日(日)…自転車通勤をした。特に体に感じる異常はなし。強いて言うなら手のひらがチクチクと少しだけ痛む感じがあった。思えばこれがすべての始まり。午後あたりから体の倦怠感が現れるが、帰りは自転車でKOM活動を行うなど体調は良く、倦怠感は気のせいかなと思った。夜半ごろから手のひらの痛みが本格化し、赤い発疹のようなものが出てきた。手の甲や太ももの内側にも現れ、みるみるうちに水ぶくれのようなブツブツがたくさん出てきた。痒くて眠れない。
 
 10月7日(月)…クルマで出勤。全身の倦怠感。水ぶくれは手の甲から腕にまで広がり、ツナギの袖を下ろしていないと気持ち悪いぐらいに目立つようになってきた。左右の鎖骨の辺りも何故か痛い。午前中、会社の人の勧めで近所の皮膚科へ行くことにする。皮膚科ではその症状から水疱瘡ではないかと仮診断されたが、幼少に水疱瘡の予防接種をしたことがあるのでハッキリとした診断が出ない。帯状疱疹にしてはブツブツの範囲が広いし、念のためとのことで血液検査をする。アレルギーの症状を抑えるアレロック錠、水疱瘡ヘルペスウイルスを殺すバルトレックス錠(高価。保険適用後で1錠500円ぐらいする)、熱冷まし・痛み止めのカロナール錠、そして痒みを抑える塗り薬コンベッククリームも処方してもらい、木曜日に再診の予約を取って会社に戻る。しかし夕方頃になって全身の倦怠感がひどくなってきたので早退させてもらう。帰宅してすぐに就寝。
 
 10月8日(火)…手のひら、手の甲、腕、内もも、尻の辺りのブツブツがひどい。口の中にも出来てきて口内炎のようで痛い。喉も痛い。倦怠感も関節痛も増してきて会社に行くどころか起き上がるのも辛い。会社に電話して休ませてもらう。処方された薬を真面目に飲んで一日中布団の中。
 
 10月9日(水)…会社は定休日なのでそれだけでも気持ちが楽に休むことができる。体のほうは昨日と変わらず。関節痛がひどく、肩、腕、手首、背中、膝、足首など全てが痛い。寝返りを打つにも思わずうめき声が出るほど。口内炎もひどくて、以前口内炎になった時に購入したケナログを塗るが全く効かず。そもそも口内炎ではないのだから致し方なしというところだろうか。上下の唇、舌、喉にも出来ているようでしゃべるのも辛い。食事はほとんど摂れず。熱を測ると38.3度であった。しかしカロナール錠を飲んでも熱はそれほど下がらず、関節痛も全く治まらない。
 
 10月10日(木)…嫁が会社を休んでくれて、月曜日に予約を取った先日の皮膚科までクルマに乗せて行ってくれた。血液検査の結果を見ながら医者が色々と説明をするが、若い医者で経験が浅いのかハッキリ診断を明言できないでいる。皮膚疾患の写真集などをパラパラとめくりながら明らかにオタオタしている様子。診断書を書きましょかとか、紹介状を書きましょかとか言うてくれるが、患者の求めるものは「大手を振って会社を休める理由」ではなく、「一刻も早い完治」である。嫁が「これは水疱瘡ですか!?」と半ばキレ気味に限定質問すると、「は、はい。水疱瘡です…」と言う。半分「もうええわ!」的雰囲気で病院をあとにする。その足で会社に出向き、しばらく休むことを告げて家路につく。途中でマクドが食べたくなって嫁に買ってきてもらうが、ポテトの塩気が口内炎に染みて食べれず。相変わらずの倦怠感、関節の痛み、喉の痛みが続く。
 
 10月11日(金)…症状全く変わらず。38度ほどの発熱はないが、37.3度ぐらいの微熱がずっと続いている。むしろ関節痛は悪化しているような感じ。トイレに座ったり立ったりするのか困難になってきて、いよいよ尿瓶がいるんじゃないかと心配になる。昨日の血液検査の結果をじっくり見ていると、VZV(水疱瘡・帯状疱疹ウイルス)のIgG判定が(+)となっている。これは水疱瘡の抗体を持っているということであり、過去に水疱瘡になったことがあるか、水疱瘡の予防接種を受けたことがあるか、無症状のまま水疱瘡ウイルスに感染したことがあるかのいずれかを意味する。つまり今回の病名はこの時点で水疱瘡ではないことが判明。先日の皮膚科は誤診であり、この血液検査結果のどこを診て水疱瘡であると診断したのか謎である。ていうか今飲んでる薬も間違っているのではないだろうか。嫁は当該皮膚科へ抗議の電話を入れたようだが、そんなんで病気が治るならバンザイである。水疱瘡の経験がある者が再度ヘルペスウイルスに感染して起こるものとしては帯状疱疹が一般的だが、どうも自分の症状と照らし合わせると異なる部分が多い。自分の病気が何なのかがわからないというのは大変不安である。子どもたちは嫁実家へ泊まりに行った。
 
 10月12日(土)…初診の皮膚科が頼りないので子どもたちも日頃からお世話になっている近所の皮膚科へ。ここは内科も一緒なので安心。体中のブツブツは全盛期から比べると少し枯れた感じになってきて収束を見せつつあるが、相変わらず関節痛がひどい。主治医が言うにはこのブツブツの枯れた感じは水疱瘡のそれではないとのこと。つまり今回の一連の症状はもしかしたらヘルペスウイルスが原因のものではなく、もっと根本的に違う原因があるのではないかと言う。ただしそれはすぐに診断がつくわけでもなく、薬を変えて症状の変化を観察するとか、日を置いて経過を観察するとかで次第に病名が明らかになっていくものであり、「この症状だからこの病気」とすぐに決めつけられるものではないとのこと。まあそう言われればそうである。そうならそうと落ち着いてわかりやすく医師然として説明してくれれば初診の皮膚科に対するイメージも異なったであろう。こちらの皮膚科では、全身の倦怠感を見かねて点滴(重炭酸リンゲル液ビカネイト輸液500ml)を打ってくれた。確かに倦怠感は少しマシになったように思うが関節痛は全く変わらず。点滴ついでに血液検査をした。検査結果は後日。アレルギーの薬フェキソフェナジン錠、痛み止めロキソニン錠、胃薬レバミピド錠を処方される。初診の皮膚科でもらった薬はまだ残っているけど以後服用せず。高価なバルトレックスがまだ残っているので少々もったいない(笑)。
 
 10月13日(日)…微熱と関節痛が続く。口内炎は少しマシになってきた。体中のブツブツもだいぶ枯れてきて、赤い湿疹のような状態になっている。しかしこの頃から関節痛が左右の指にも現れるようになり、特に人差し指の第一関節を動かせない。外部から無理に動かせば可動するがかなりの痛みを伴う。夜寝ている時も左右の脇の下から先に血液が流れないような感覚があって腕が痺れるような感覚。変な体勢で寝ていると腕の感覚がなくなっていることがあるがそんな感じ。痛み止めのほうは、カロナールは効かなかったがロキソニンは効いているようだ。効いている間は関節痛がマシになって、座ったり立ったりが随分楽になる。しかし寝起きなど長時間同じ体勢を続けていたあとには効果なし。痛みで布団から起き上がるのに10分ぐらいかかることもある。枯れたブツブツのあとに痒みが出てきた。でもまあこれぐらいの痒みは守備範囲内。どうってことない。
 
 10月14日(月・祝)…微熱のほうは24時間の半分以上は平熱になってきて全身の倦怠感もほとんどなくなってきたが、相変わらず関節痛がひどくて、痛み止めを飲むタイミングをうまくコントロールしないとトイレ・風呂・食事など生活に支障が出るほどである。この痛みさえなければ会社に行って仕事もできようが、歩くにもままならないようでは工具も持てない。自宅でできるような仕事ではないので、家で悶々としながら過ごすのみである。口内炎はほぼ収束。出来物が乾燥して唇が痒くなるが、リップクリームを塗って対処。食欲が戻るだけでもありがたい。食べられるということは回復も見込めるということである。
 
 10月15日(火)…寝起きの関節痛だけが辛いけど、日中は随分楽になってきた。まだまだ指の痛みは残る。夕方主治医のところへ血液検査の結果を聞きに行く。やはりVZVへの抗体は間違いなく持っていて水疱瘡ではないことが確実に。そういえばバルトレックスを止めてフェキソフェナジンに替えてから症状の快方速度が上がったような気がする。まあこの辺はセカンドオピニオンの役得ということかもしれない。一応これで診察は終了、あとは様子を見ながらの薬の服用と自然治癒ということなのだが、一応念のため1週間後にもう一度血液検査をしましょうとのことで診察の予約を取って帰宅。関係ないけど歯医者にも行った。
 
 10月16日(水)…寝起きの関節痛は相変わらず。少しマシにはなったかな。普段の休みと同じで、散髪に行ったりスイミングの引率に行ったりした。長い間同じ体勢を取っていると関節痛がぶり返す感じ。血の巡りが悪いのだろうか。夕方少し疲れて30分ほどウトウト。全快祝い(全快でもないけど)ということで家族で焼肉に行った。ビールも解禁してみたけど感動的な旨さというほどでもない。焼肉も脂が乗った肉は2切れぐらいしか食べられない。家で鍋でもしたほうが良かったかな(^^;)。明日から社会復帰。

『つばさものがたり』 雫井脩介 角川文庫

 雫井脩介4作目。ここんとこ体調を崩して会社休暇中。外にも出歩くことが出来ないので読書ぐらいしかすることがない。雫井脩介ならなんでもええわと買ってきた本。
 
 パティシエールの君川小麦さんという若い女の子が主人公。長年働いたケーキ屋から独立し、お母さんとともに地元でケーキ屋を始める。ところが甥っ子の叶夢(かなむ)君は「てんしがいないから、このばしょは、はやらないよ」と不思議な事を言う。
 
 叶夢君にしか見えない天使「レイ」と、身体に不安を感じたままケーキ屋を切り盛りする小麦さんの成長物語というところだろうか。大まかなストーリーはそんな感じである。まあ言うなればファンタジーである。
 
 私も40男なので、こういったファンタジー系は知っていれば手に取ることはないのだけれども、雫井脩介の初めて読んだ作品がバリバリのサスペンスミステリーだったので、ファンタジーとは言えきっとどこかにサスペンシブでミステリアスでエキサイティングなところがあるのかなと期待したが、それはそれはもう、ガッチガチのファンタジーであった。
 
 ストーリーの流れ的には想像通りで特に大きなどんでん返しが待っているわけでもない。なのに一気に読み込んでしまうのは、私が体調を崩して暇を持て余しているからということを差し置いても、やはりそこは作者の筆力というところなのだろう。今のところ雫井脩介作品で途中断念、もしくは読了までに3日以上かかった作品はない。読むのが遅い私にとってこれはすごいことなのである。
 
 雫井脩介作品では女の子が主人公のものは多い。そしてどの作品の主人公も好感が持てて感情移入してしまう。したがって物語の途中でどんな困難があっても、ラストまでにはその努力が報われて欲しいと願っている自分がいる。そういう意味ではこのラストは少々悲しいものではある。ここまでファンタジーに特化したんだから夢の様なハッピーエンドでもええんちゃうんかいと思ったぐらいである。
 
 ところが今物語を振り返ってみると、ガチでファンタジーなのは天使「レイ」と話す叶夢君だけであることに気づく。一応周りの大人も叶夢君に合わせてレイが見える振りをする部分もあるが、それはあくまで振りであって、大人はしっかりと現実世界に生きているのである。
 
 叶夢君に言わせれば、天使はたくさんいて人間を見ているらしい。私の周りにも天使が飛んでいて、例えば靴の紐が解けたり、風で洗濯物が飛んで行ったり、里芋の煮物を箸で掴めなかったりする時は、天使のイタズラなのかなあと、40にしてそんなファンタジーなことを妄想してしまったではないか。

KOM活動

 STRAVAにおけるKOM(キングオブマウンテンの略)活動がマイブームである。清滝峠や十三峠などの有名どころは私がどうあがいても届かないタイムになってしまっているのでどうしようもないけれど、マイナーな場所ならばこんなワタクシでもKOMが可能な場所がある(笑)。
 
 それは通勤帰りの阪奈道路。生駒ICから阪奈TOPまでの緩やかな登りである。距離にして2.3kmということなので大した坂でもないんだが、数ヶ月前にちょっと頑張って漕いでみたらあっさりKOMを獲得することができたのだ。赤い水玉グッズが好きな私にとって、まるで降って湧いてきたようなものであれ、“キングオブマウンテン”の称号が嬉しくないわけがない。それ以来、通勤帰りにここを通るたびに、
 
 「オレはこのコース最速のオトコなんじゃい」
 
 という、ワケのわからん自信に満ち溢れた状態でホクホクしながら走っていたのである。
 
 ・・・・ところが王座は長くは続かなかった。
 
 先日STRAVAのページにログインすると、「KOMが盗られちゃいました!」的メッセージが。見てみると、見知らぬローディーが私の最速タイムを20秒ほど短縮してKOMに輝いているではないか。
 
 いやいや、こんなもん所詮はゲームである。こんなことで熱くなってどうするんだと言い聞かせている自分もいれば、悔しがっている自分も正直いる。いやいやゲームだゲーム。もしかしたら原チャリかもしれんぞ。
 
 根も葉もない疑いをかけられて見知らぬローディーも災難である。ここはやはりKOM奪還のためにがんばろうではないか!ということで、昨日の仕事帰りにアタックしてみた。
 
 なかなか調子が良くて、こりゃイケる!と思ったのだが、自己ベストは更新したけどKOM奪還には至らず・・・・。
 
 ま、仕事帰りで荷物も背負ってるしな(←負け惜しみ)

お疲れ気味・・・

 先日日曜日は小学校の運動会のために仕事を休み、応援へ行ってきた。ここんところ仕事が忙しく、定休日以外の休みを取ることがなかなか出来なくてお疲れ気味だったのだが、直射日光の当たる運動場でさらに体力を消耗してしまった。鈴鹿が終わった時点で自分の中での夏は終わり、完全にココロとカラダは秋モードへと突入していたので、今更「真夏日!」とか言われてもコマルのである。
 
 昨日は各地で運動会が行われたようで、シクロッサーたちの運動会、つまり関西シクロクロスのプロローグが南山城ステージで行われたそうだ。去年は確か10月だったから少し時期が早くなったのかな?それにしても私が初めてシクロクロスを間近で見て以来もう1年になるということである。
 
 CX車を手に入れて早1年。実戦は1戦のみ。少しのトレイルライドと、あとはほとんどが通勤ライドというお粗末なものであるが、このバイクが持つ不思議な魅力はなんだろうかと思う。
 
 ロードを速く走るためにはロードバイク。ダートを速く走る為にはMTBがある。そのどちらでもない、つまりどちらも大して速くないこの中間的な存在がなんだかホッとさせてくれる。もちろんシクロクロス競技に本気で取り組んでいる方々にとってはピリピリしたものがあるのかも知れないけど、少なくとも私にとっては、気持ちがOFFの時に乗る自転車という位置付けである。
 
 こういう存在はとてもありがたい。これをヘタに色気を出してDi2に換装してしまったり、カーボンディープリムホイールにしてしまったりすると、これまたピリピリしたほうへ行ってしまうので、このバイクはこのままでずっと置いておこうと決めている。もっと仕事や時間に余裕ができて、ピリピリした感覚をシクロクロスでも味わいたいなあとなった時は、コルナゴのやつが欲しい。

『犯人に告ぐ』上・下 雫井脩介 双葉文庫

 雫井脩介連続記録更新中(笑)。『火の粉』『クローズドノート』と来てこの『犯人に告ぐ』である。代表作を3冊も読めば立派に「雫井脩介?あー知ってるよ」と言えるだろう。上下巻に分かれた長編作であったがスムーズに読むことができた。基本的に上下巻に分かれる本は、読了後の達成感が半減するような感じがして敬遠する傾向にあったのだが、読みたい本がそうなんだから仕方がない。
 
 巻島という50歳ぐらいの刑事が主人公。ストーリーの方は6年前に起こった幼児誘拐事件で犯人を取り逃がし、さらに釈明記者会見で失態を犯して田舎に左遷された経歴を持つ。そして6年後、新たに起こった連続幼児誘拐殺人事件。捜査は迷宮入りの様相を呈する中、犯人から警察を挑発するような内容の手紙が送られてくる。こういった劇場型犯罪に対抗するのは劇場型捜査しかあるまいと、テレビで犯人に呼びかけるという異例の操作方法に抜擢されたのが巻島刑事である。
 
 6年前の失敗を心に残したまま、新たな事件に取り組む寡黙な巻島の姿勢。警察内部の諸事情、捜査内容のリーク、自分の家族への影響、マスコミや世間からのバッシングなどなど、足を引っ張られる要素が満載なのにもかかわらず、この巻島の取り組み姿勢は本当に頭がさがる思いである。そして主人公に感情移入させたら雫井脩介は天才的だなと思う。
 
 登場人物のキャラクターはある意味ベタなのだ。正義感あふれる刑事、それを指揮するうるさい上司、手柄を横取りしようとするズル賢いヤツ、温かい理解者、愛する家族。そしてそれらがラストに向けてベタな収束へと進む。それが私にとってはとても安心して読むことができるのだ。ヒットするハリウッド映画は、必ずヒーローとヒロインがメインで、悪者がいて裏切り者がいて、協力者が現れ、最後は必ずハッピーエンドという構図である。雫井脩介もその構図を外れない。だからいいのかもしれない。
 
 この作品もとてもおもしろかった。今のところ雫井脩介にハズレなしである。
 
 余談だが、雫井脩介の作品の巻末には参考文献が何冊も紹介され、協力者の名前も挙げて感謝の意を述べている。マラソンで言うとゴール後に振り向いてコースにお辞儀をするような感じがして好感が持てる。そういや伊坂幸太郎もそうだったな。

復興祈念ライド

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 台風の影響により、チームTTをはじめ冬のランニングその他の練習場所となっている淀川河川敷が水没してしまった。まあそもそも河川敷とは、河川が氾濫しないようにするためのものなので本来の仕事をまっとうした形となるわけだが、あまりにも酷い光景だったので少なからずのショックを受けた。
 
 水が引いた現在、河川敷は泥と瓦礫にまみれており、比べるのは失礼かもしれないけどそれこそ津波の後のようで、その壮絶な光景にただただ茫然とするばかりであった。車止めには流木や雑草が大量に絡まり、簡易トイレはひっくり返り、テニスコートのネットは無残にもなぎ倒され、グラウンドはロードローラー1台や2台ではどうしようもないぐらいにデコボコになってしまっている。
 
 早くも重機が入り整備されつつあるが、これが淀川河川敷全てのエリアであることを考えると気の遠くなる作業である。改めて現場の皆さんには頭が下がる思いである。
 
 シクロクロスバイク(以下CX車)で偵察ついでのライドをしてみたが、すれ違うローディーのほとんどが、
 
 「ドロドロになるよ」
 
 と声をかけてくれる。泥が怖くてCX車に乗れるかいと思いながら進むと、本当に通行不可能な箇所が多々あり、大きく迂回して進むか、5cmぐらいの深さの泥道を進むかのどちらかの選択になる。躊躇なく後者を選んで進んでいったのだが、今思えば、残った轍が乾燥してさらにデコボコ道になってしまうということまで脳みそが回らず、自分の興味本位だけで軽率なライドをしてしまったなと反省しきりである。
 
 とはいえ久しぶりの泥まみれ。これで泥に対する抵抗感のリミッターも解除できたかなと、グラウンド整備に尽力する人たちの苦労をよそに、一足早めのCXシーズン幕開けとなった。どうもすいません。

『クローズドノート』 雫井脩介 角川文庫

 『火の粉』ですっかり雫井脩介のファンになってしまった。こうなると次の本選びは早い。古本屋ですぐに見つけた『クローズドノート』。あとでわかったことだが、この作品は映画化された際の舞台挨拶で、主演の沢尻エリカが不機嫌な返事をして話題になったアレだ。映画は見てないけど、その題名と、沢尻エリカの奇抜なファッションをテレビで観て、勝手に不良モノとかバイオレンスモノだと思い込んでいたが、読んでみると全然違う。作品の印象さえも変えてしまった沢尻エリカの態度は罪深いのではないだろうか。まあええか。
 
 文房具屋でアルバイトをする女子大生が主人公。一人暮らしをしているアパートの押入れの隅から、前の住人のものと思われる日記を発見。それを読んでいくうちに、自分の実際の恋と、日記の中の人物の恋が次第にリンクしていくという感じのストーリー。『火の粉』とは全く違う純愛モノである。
 
 前にも書いたけど、雫井脩介は男性にもかかわらず、本当に女性の心理描写が上手である。まあ女性がこの本を読んでも結局は男性の想像での女性像なのでちょっと違うと感じるかもしれないけど、少なくとも私はこの物語に登場する女性には好感を持ってしまう。特に主人公の香恵ちゃんは少し天然キャラでどんくさいところが可愛い。舞台挨拶の沢尻エリカとは全く正反対である。
 
 そして主人公が文房具屋でバイトをしているということもあって万年筆関連の記述がやけに詳しい。さらにマンドリンクラブに所属しているということもあってマンドリンのことも多く書かれている。この2つの主人公の趣味は直接物語には関係してこないのだが、そのマニアックなところに頁を多く使うことで、小説の中の世界にゆっくりと浸れたように思う。「じれったい」と感じる人も多いだろうが、前に読んだ『火の粉』がスピーディーかつエキサイティングだったので、こういうギャップを自分の中で楽しめたのはラッキーであった。
 
 ラストシーンは泣き所。ベタだとは感じつつも目頭が熱くなる。そしてオチは天然な香恵ちゃんらしいものとなって微笑ましい。爽やかで素敵な作品でした。こういうのばっかり読んでたら穏やかな人間になれるのかな?それはないか。とりあえず万年筆が欲しくなった(笑)。
 
 そして、あとがきでもういっぺん目頭が熱くなるのだ。

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『火の粉』 雫井脩介 幻冬舎

 雫井脩介(しずくいしゅうすけ)という作家を、私は全く知らなかった。代表作も知らないし、名前も聞いたこともない。それが本屋の一番目立つところに平積みにされていて、しかも手書きのPOPで「一気読み!」だの「面白い!」だのと書かれている。手にとって見てみると初版は平成16年とあるからもう9年前である。最近映画化されたわけでもないそんな作品が今更本屋のイチオシとなるなんて何かあるのだろうかと、半分騙された気分で読んでみた。
 
 感想から書くと、メチャメチャ面白かった。サスペンスミステリーな感じなので、面白いというか“怖い”のが本心だが、600頁弱の分厚さにもかかわらず本当に一気読みで、読むのが遅くて有名な(?)私でも正味たったの2日で読み終えてしまった。本屋のPOP効果に協力する形となってしまって天邪鬼の私としては納得のいかない部分も正直あったのだが、素直に書店店員のPOPに従ってみるのもいいもんだなと思った。
 
 物語は裁判シーンから始まる。一家惨殺の凶悪事件の容疑者である武内に、証拠不十分として無罪判決を下した裁判官の梶間勳が主人公。冤罪を免れた武内はその恩を返すべく、裁判官引退後の梶間家の隣に引っ越してきて溢れんばかりの善意を持って梶間家に尽力する。ところがその親切も度を越してきて、やがては武内の素性が明らかになっていく・・・・というストーリー。
 
 物語には、梶間の妻が義母の介護をするシーンや、梶間の息子の嫁が子育てに苦労しているシーンなんかがあり、とても女性の心理描写が上手だなと思った。まるで女性作家かなと思うぐらいだ。そういう女性ばかりが苦労している家庭に武内はスッと入り込んできて、介護を手伝ったり、子供の面倒を見てあげたりして、一気に株を上げていく。
 
 反対に梶間家の男性陣はなんだか頼りなく、特に息子の俊郎は最後の最後までアホであった。武内の二重人格性も怖いことは怖いが、こういった家庭内における男性陣の頼りなさ、無関心さもある意味怖い。結果的に梶間家全体に危険が及ぶことになった。
 
 ストーリーは盛り上がり、その勢いでどんどん進む。残り頁数が少なくなってくるに連れてどんなラストが待っているのかと少々心配になったが、予想をいい方へ裏切る衝撃的なラストだった。最近は万人受けするような“ユルい”ラストのミステリーばかりだったので、こういう「いかにもサスペンスホラー!」という感じのラストは逆に新鮮でスカッとした。
 
 これはオススメです。恐らく、サスペンス好きの30~50台の女性は面白いと感じてもらえるのではないでしょうか。