『陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎 祥伝社文庫

 東京出張の際に暇つぶしの為本屋に駆け込んで平積みしていたものを反射的に手に取った。「陽気なギャングシリーズ」のの第1作目だそうだ。この第1作目は随分と昔に既出だったようで、最近3作目が発表されたので、それでは1作目から売ってやろうではないかという本屋の作戦にまんまと関西人が引っかかったカタチである。さすが東京。
 
 ストーリーを一言で言ってしまうと、それぞれ異なる個性をもった4人の銀行強盗のドタバタ劇ということになるのだが、この4人のキャラクターが素敵で、彼らの台詞を聞いているだけでも十分面白く、人生の糧にしたいと思えるものも多々あった。
 
 銀行強盗という大胆な犯罪を、とても用意周到にスマートに行う彼らの美学が単純にオモシロかっこいい。内容自体は難しいものではなく、気楽に読めるので大変オススメである。

『禁断の魔術』 東野圭吾 文春文庫

 ガリレオシリーズ最新作。本の帯に東野圭吾本人により、「間違いなくこれはガリレオシリーズ最高峰です!」みたいなことが書かれている。こういうことを書いた本人が言うのか~と少々冷めた気持ちで手に取ったのではあるが、理由を調べてみて納得。当初短編集の一作品として発表する予定だったのだが、アイデアが湧き出るように膨らみ、一つの長編へと“出世”したというのである。産んだ親にしかわからない気持ちであろう。しかし読者にはあんまりその辺の事情は関係ない(笑)。
 
 ストーリーはそんなに難しいものではない。科学者を目指している若者が、湯川の協力の下レールガンという装置を開発。当初はパフォーマンス用に作られたのだが、若者の姉が謎の死を遂げ、その真相を若者が独自に捜査。姉を見殺しにした者に復讐するためレールガンを使おうとする、というもの。
 
 自分が開発に携わった装置が殺人に使われるかも知れないという事実と、自分の後輩である科学者の卵が殺人を犯すかもしれないという、科学者(正しくは物理学者)そして後輩を想う先輩としての湯川の苦悩を描いている。
 
 若者が働いている小さな町工場でレールガンの精度を上げるために徹夜して作業している姿、そしてそれを見守る無知で純粋な彼女。なんだか同じく小さな町工場で精度の高い拳銃を自作する男が登場する『白夜行』に似ているなあと思いながら読み進める。
 
 ミステリー自体は軽く解決したものの、ラストシーンでの若者と湯川のやり取りがクライマックス。「科学者とはなんぞや」を教えてもらったようで、自分も科学者なら共感したであろう場面である。
 
 ガリレオシリーズは基本的にストーリーの構造がほぼ同じ。それはつまらないというわけではなくて、安心して読み進めることができる。個人的には好きなシリーズです。
 

『フィッシュストーリー』 伊坂幸太郎 新潮社

 西やんと飲んでる席で「面白いから」とプレゼントされた本。私は基本的に人から薦められた本が自分に合わないとその人自体も合わないような気がして、正直「これ面白いから読んでみ」と言われても気が進まないタイプなのだが、西やんも伊坂幸太郎ファンなので(ていうか西やんに教えてもらった)、そのへんの感覚は似ていると確信してありがたく読ませていただくことにした。
 
 『動物園のエンジン』『フィッシュストーリー』『サクリファイス』『ポテチ』と、4編からなる短編集で、やはり本の表題となった『フィッシュストーリー』が一番面白かった。
 
 既に映画化されていたようで、映画では売れないバンドがストーリーのメインで進んでいくようだが、原作となった小説では、時代背景が4つに分類されており、その異なった時間軸が一つのエピソードでおしゃれに纏まっていくという感じ。バンドマンのエピソードはその一つにすぎない。なーんか同じような伊坂作品があったように思うけど忘れた。
 
 少し前に同作家の『オー!ファーザー』を読んだせいかもしれないが、父親関係の物語が続いたこともあり、ファザコンの匂いがぷんぷんする。同じ作家を好きで読み続けていると、作品作品でその作家の性格や育ちみたいなものもわかってくるような気がして、改めて作家という商売は自分を赤裸々におっぴろげる商売なんだなあと思った。
 
 全体的にはさらさらと読めて楽しい作品でした。西やんどうもありがとう。

『虚像の道化師』 東野圭吾 文春文庫

 ガリレオシリーズの最新刊。とはいえ福山雅治主演のテレビドラマシリーズで放送済みのやつなんかも収録されていてま新しさは正直ないが、私はガリレオシリーズが好きなのでこれはこれで楽しめた。
 
 7つの短編集となっており、それぞれ1時間ほど(自分比)あれば読めてしまうので、子供の習い事の引率中とか、電車に乗ってる時とかにパッと読めて結構なことである。
 
 7つのうちの『曲球る(まがる)』と題された作品は、戦力外通告されたベテランピッチャーが主人公で、確かテレビドラマではその悩めるピッチャー役を田辺誠一が演じていた。
 
 勝負球であったスライダーのキレを取り戻すために四苦八苦している最中、専属のピッチングコーチがひょんなことから湯川学の研究資料を目にして帝都大学の門を叩く、という流れである。
 
 作中では当然ピッチングするシーンが何度も出てくるのだが、ドラマ版での田辺誠一のピッチングフォームがなんだかおかしくて(恐らく野球未経験者)、素敵なストーリーだったのにもかかわらず物語がアタマに入ってこないというグダグダ感であったのを思い出す。
 
 その点、文章になるとそのあたりの“補正”が脳内で自動的に行われるので、フォームは日ハム大谷くんのように美しく、スライダーはダルビッシュのそれのように鋭く曲がり、バットは阪神時代の新井お兄ちゃんのように虚しく空を切るのである。
 
 肝心の(?)殺人事件のほうは、ピッチャーの奥さんが殺されるという悲劇的なものだが、私が野球好きということもあってか、記憶に残るのは野球シーンばかりである。まあこの作品に限らず、ガリレオシリーズというと殺人事件の謎解きメインな感じに思われがちであるが、実はそれに至るまでの人間関係や誤解などを解くために物理学が使用され、この作品だけでなく、なかなかココロ温まるお話なのである。
 
 「テレビとは違うガリレオの世界をお楽しみ下さい」と、本の帯に東野圭吾本人のメッセージがある。私は「田辺誠一のピッチングフォームのおかげで台無しになっちゃったから、改めてこの物語を活字でお楽しみ下さい」という意味であると勝手に捉えている(笑)。

『PK』 伊坂幸太郎 講談社

 読了したのはもう2ヵ月も前。飛行機の中で読もうと買った本だ。早くも内容が忘却の彼方に追いやられ気味ではあるが、なんとか記憶を奮い起こして感想文でも。
 
 とても不思議な時間軸の中で物語が進む。エピソードごとに主人公も時代もガラッと変わるのだが、実は全てのエピソードが時を越えて繋がっており、飽きさせない構成になっている。
 
 ほんとに何度も書くようだが、伊坂幸太郎の書くキャラクターの台詞や振る舞いはとてもスマートで大好きである。村上春樹に似ているようなのだがあそこまでぶっ飛んでいる感じではなくもっと親しみやすい感じ。私はそんなキャラに好感を持っているので、タイムパラドックスを使った一見ありきたりなようなストーリーでも十分に楽しむことができた。
 
 伊坂幸太郎が好きな人にはおすすめ。初めて読む人にはゴールデンスランバーがいいと思います。
 
 

『紙の月』 角田光代 ハルキ文庫

 突然だが、私は宮沢りえが好きである。この作品は最近宮沢りえ主演で映画化されたので、普段映像化反対派のくせにこれだけは宮沢りえ目当てで観に行こうと思っていたぐらいである。しかしゆっくり映画を観に行くような時間を捻出しようとすると色々と弊害が出るもので、そんなときに本屋をぶらついたらこの原作本が平積みされていたので手に取った次第である。
 
 大まかなストーリーとしては、銀行勤めのアラフォー女性が客の金を着服し、若い大学生の男に貢ぐという話である。ほんとに大まかすぎてこの作品のファンの方々には申し訳ないぐらい大まかなんだけど、そんなとこである。
 
 主人公の梅澤梨花の表情や態度や声の想像が宮沢りえにすっと合わせることができ、大変読みやすく感じた。ところが内容的にはとてもリアルで心理描写がしつこいほど詳細。時には深く共感、時には逆に不快に感じることがあるほどであった。
 
 基本的には真面目で平凡な暮らしをしている梅澤梨花が、だんだんと男と金に振り回されるようになっていく過程を描いているのだが、段落段落での梅澤梨花のかつての親友や元カレなどの現在のエピソード、そして指名手配された梅澤梨花を思う心理などもこれまた詳細で、さすがの筆力という感じである。
 
 私は梅澤梨花と同年齢ではあるが男性なので、女性はまた違う感じ方をするかもしれない。梅澤梨花に共感できる部分は客の金に手を付け始めた序盤から中盤辺りのみであるが、女性は最初から最後まで共感し続ける人がいるだろう。梅澤梨花と似た境遇にある人はたくさんいるだろうし、もしかしたらそう遠くないところに同じような人がいるかもしれない。
 
 これを読んだ同年代の女性と語り合ってみたいものである。

『マスカレード・イブ』 東野圭吾 集英社

 前作の『マスカレード・ホテル』を読んで、正直、新キャラと言われるほどのキャラクター性を感じなかった新人刑事新田とホテルマン尚美だったので、続編であるこの本を買おうかどうしようか迷っていたのだが、ちょうど東京へ出張があり、新幹線の中で読むために半ば衝動的に駅の本屋で手に取ったのがこの本であった。
 
 作品の出版順としては『~ホテル』の次に『~イブ』となるわけだが、内容的には『~イブ』のほうが時間的に前になり、新田と尚美が出会う前の設定になっている。基本的な構造としては、ホテルと警察で起こる事件や問題を、新田と尚美それぞれのエピソードとして独立させた短篇集となっており、後半につれて登場人物や伏線が絡められてくるという、連ドラお決まりの手法である(笑)。
 
 「お客様の仮面(マスカレード)を剥いではならない」というホテルマンとしての使命と、「容疑者の仮面を剥いていく」という刑事の使命が相反するところがこのシリーズの面白いところではないかと思う。とはいえ、刑事に協力したい正義感に溢れた尚美は、お客様のプライベートに関することまで少し介入したりする。新田は新人刑事という役回りで、そういう尚美に対して辟易したり一目置いたりするわけである。
 
 この2人が主人公の連ドラの制作はそう遠くないであろう。それほど人物描写が映像に表現しにくいというわけでもないし、ストーリーも難解なものではない。今が旬な俳優を男女2人立てればソコソコの視聴率は得られるのではないか。この作品を読んでいるあいだは常にそんなことをアタマの片隅で考えながら読んでいた。
 
 つまり、どっぷり物語にハマってしまうような作品でもないかなというのが感想。最近の東野圭吾作品は、読みやすくて軽やかな感じになってきた。それはそれでいいのだが、『白夜行』とか『手紙』のようなしっかり読ませる作品もそろそろ期待したいのである。

2

『マスカレード・ホテル』 東野圭吾 集英社

 文庫版になったので購入(笑)。さすが売れっ子作家。次から次へと新作が出てくる。本屋を徘徊しているとハードカバー版の新作が平積みになって常に並んでいる印象がある。しかしファンであるとはいえ2000円近くする本をおいそれとは買えないので文庫になるまで待つわけだが、ハードカバー版など大きいし持ち運びに不便だし嵩張るし、あんなもん買う人なんかいるのだろうかと思ってしまう。
 
 都内で起きた連続殺人事件。死体と共に暗号メモが置かれており、それを解読すると次の殺人予告となっていた。次の殺人場所に選ばれたのは一流高級ホテル。捜査一課の刑事はホテルのスタッフに変装し潜伏捜査を行うことに。その捜査にあたる刑事の一人が新田浩介。そして新田を指導する係となったのが優秀な女性フロントスタッフや山岸尚美である。
 
 どうやらこの新田という人物が、東野作品には欠かせない「湯川学」や「加賀恭一郎」と並ぶ新しい定番キャラクターとなるようだが、先の2人の印象が強すぎてどうもキャラが弱いように感じた。同じ刑事という職業からか加賀恭一郎とどうもかぶってしまう。強いて言えば加賀恭一郎は手柄などにはあんまり興味がない庶民派であるのに対して、新田はもう少し若くて実績を得ることに貪欲なイメージ。
 
 物語の序盤は、ホテルにやって来る様々な客を相手に辟易する新田と、それを諭しながらホテルマンとしての接客を教えていく尚美のやりとりで進んでいく。しょうもない接客マニュアルよりも尚美のセリフを読んでいるほうが役に立つのではないかというぐらい、尚美の接客に対する考え方は素晴らしいと思った。同じく接客する私も学ばなければならない部分が多い。
 
 とんでもないクレームをつけてくる客、わけのわからないお願いをする客、本当に様々な客がやって来るのだが、それぞれの客との問題を新田と尚美が解決していく。それがまるで連続ドラマの1話ごとのくくりになっているかのようで、おそらく映像化されるのはそう遠くないであろうと感じた。
 
 事件は終盤に差し掛かり解決の糸口が見つかってくるのだが、序盤に現れた様々な客がしっかりと伏線になっていて、そのあたりはさすがだなと思う。ただ、事件の真相自体はそれほど驚くべきことでもなく、連続殺人をするほどの動機というのもちょっと弱い感じがした。もうちょっと濃い感じを期待していたので残念だ。
 
 続編(?)として、『マスカレード・イブ』という作品も売られている。通常ならばすぐに続編を読む私だが、他にも読みたい本があるし、またの機会でいいか。。。

2

『ラブレス』 桜木紫乃 新潮社

 いつもの本屋に寄ったら、「ぜったいオススメ!」的な手書きPOPと共に平積みされていたので購入。雫井脩介で成功してから本屋店員の手書きPOPには素直に従うようにしている。
 
 そして結果的に今回も、大成功であった。
 
 北海道開拓時代の明治から現代にかけての3代に渡るリアルな女の生き様物語。中でも3代の真ん中にあたる百合江の生涯が全体を牽引していく。超極貧の家に生まれ育ち、アルコール依存症の両親に育てられ、強引に奉公に放り出される。奉公時代に見た旅芸人の歌に魅了されて奉公先を飛び出し、女歌手「一条鶴子」に弟子入り。明日明後日もわからない日々の生活の中で、出会う男たちや身にふりかかる災難に翻弄され続けながら生きる、正直言ってなんとも暗~いお話しである。
 
 女性作家ということもあってか全て女性目線で書かれており、この物語に出てくる男性はみなヘタレばっかりである。そんなダメ男にせいで明らかに不幸な人生を送る羽目になっているのに、自分の気持ちの中で折り合いをつけ、幸か不幸かを意識することなく強く生きようとする女の姿がとても印象に残った。
 
 何故かダメ男に惹かれる女性は存在する。ハタから見ていても「なんで?」というぐらいの男に尽くしている。親友達からなんと言われようと、自分が苦労を我慢さえすればと付いて行く。まさに、やしきたかじんの『やっぱ好きやねん』の世界である。
 
 ともあれ、暗くて重い物語であったにも関わらず一気読みであった。桜木紫乃はその後発表した『ホテルローヤル』で直木賞を獲ったそうだ。今後も注目していきたい。

『幸福な生活』 百田尚樹 祥伝社

 話題の百田尚樹の新作。百田尚樹ならハズレはないだろうと手に取った。何度も言うようだけど、百田尚樹はちょっとノンフィクション作家の感じである。歴史上や現代の事実に基づいて物語を構成していくところなど、やはりテレビ出身の人だなあという感じである。ところがこの『幸福な生活』は今までの長編ノンフィクションではなく、夫婦にまつわる物語を収録したショートショート的なことになっている。
 
 少ない時間でキリのいいところまで読めるショートショートが昔から好きだったので、深い思慮もなくこの本を取ったにもかかわらずラッキーであった。笑いあり涙あり、ときにはSFチックな話もあり、改めて百田尚樹の懐の深さを知る。物語最後の一行が次の頁の最初に来るように編集されていて、真っ白な頁にたった一行だけのセリフが、恐くもあり面白くもあり意味深くもあり、読んでいる者に不思議な余韻を与えてくれる。まるで落語のオチのような感じで、本当に百田尚樹はエンターテイナーだなと感じさせる。
 
 全部で19編収録されており、それら全てが夫婦にまつわる物語となっているので、まさにヨメコドモのいる私のような世代にハマるものが多い。個人的には『豹変』と『ママの魅力』が気に入っている。
 
 『豹変』は、不妊に悩む若い夫婦の物語。妻に内緒で診察に行き、閉塞性無精子症と診断された夫が、どうやって愛する妻にこの事実を話そうかと悩みながら帰宅すると、思いの外機嫌の良い妻が放った言葉は・・・・。
 
 『ママの魅力』は、ガリガリの夫と巨体の妻が登場。その見かけによらずゴキブリなどが出ると「キャー!」と言って夫に抱きつくブリっ子ママの姿を見て呆れる小3の息子。ある日、放し飼いにされた土佐犬に襲われた息子。荒れ狂う土佐犬の前に立ちはだかった巨体妻の取った行動は・・・・。
 
 電車の中や家事の合間にちょっと読むのがオススメの本です。