『クローズドノート』 雫井脩介 角川文庫

 『火の粉』ですっかり雫井脩介のファンになってしまった。こうなると次の本選びは早い。古本屋ですぐに見つけた『クローズドノート』。あとでわかったことだが、この作品は映画化された際の舞台挨拶で、主演の沢尻エリカが不機嫌な返事をして話題になったアレだ。映画は見てないけど、その題名と、沢尻エリカの奇抜なファッションをテレビで観て、勝手に不良モノとかバイオレンスモノだと思い込んでいたが、読んでみると全然違う。作品の印象さえも変えてしまった沢尻エリカの態度は罪深いのではないだろうか。まあええか。
 
 文房具屋でアルバイトをする女子大生が主人公。一人暮らしをしているアパートの押入れの隅から、前の住人のものと思われる日記を発見。それを読んでいくうちに、自分の実際の恋と、日記の中の人物の恋が次第にリンクしていくという感じのストーリー。『火の粉』とは全く違う純愛モノである。
 
 前にも書いたけど、雫井脩介は男性にもかかわらず、本当に女性の心理描写が上手である。まあ女性がこの本を読んでも結局は男性の想像での女性像なのでちょっと違うと感じるかもしれないけど、少なくとも私はこの物語に登場する女性には好感を持ってしまう。特に主人公の香恵ちゃんは少し天然キャラでどんくさいところが可愛い。舞台挨拶の沢尻エリカとは全く正反対である。
 
 そして主人公が文房具屋でバイトをしているということもあって万年筆関連の記述がやけに詳しい。さらにマンドリンクラブに所属しているということもあってマンドリンのことも多く書かれている。この2つの主人公の趣味は直接物語には関係してこないのだが、そのマニアックなところに頁を多く使うことで、小説の中の世界にゆっくりと浸れたように思う。「じれったい」と感じる人も多いだろうが、前に読んだ『火の粉』がスピーディーかつエキサイティングだったので、こういうギャップを自分の中で楽しめたのはラッキーであった。
 
 ラストシーンは泣き所。ベタだとは感じつつも目頭が熱くなる。そしてオチは天然な香恵ちゃんらしいものとなって微笑ましい。爽やかで素敵な作品でした。こういうのばっかり読んでたら穏やかな人間になれるのかな?それはないか。とりあえず万年筆が欲しくなった(笑)。
 
 そして、あとがきでもういっぺん目頭が熱くなるのだ。