2

新しい営業方法

 2週間ほど前だったか、レンタカー会社の営業マンが来た。彼は私のコルナゴを見ると「自転車やってるんですか?」と聞いてきた。なんでも同じ営業所にロードバイクにハマってる奴がいて、大阪を拠点にしているチームに所属していると言うからもしかしたらどこかで会ってるかも知れませんね今度連れてきます、とのことであった。
 
 で、昨日。
 
 ほんまに連れて来た(笑)。残念ながら存じ上げはしなかったが、大阪の某有名チームで練習している若いローディーさんだった。昨日は路面ウェットと寒さに心が折れてクルマ通勤だったから自慢のC59をお見せできなかったのだが、ひとしきり自転車の話題で盛り上がった。
 
 「Mさんの脚質は?」と訊いてきたのには笑った。横で聞いていた担当営業マンは( ゚д゚)ポカーンである。ローディー営業マンの彼は見るからにクライマー体型で、清滝なら10分台で登りそうな感じだ。「私もクライマーです」と言うと十三峠とかのタイムを聞かれそうだったので躊躇せずに「スプリンターです」と応えておいた(笑)。
 
 接客中などに「私もロードバイク乗ってますねん」と話しかけてくる人と会話していると、どうやら私は自分でも意識していなかったのだがベテランの域に入るぐらいの経験者のようで、出たことのあるレース、行ったことのある場所、所有している自転車の種類など、ほとんどの人を驚かせてしまう。まあ長くやってればいいというものでもないし、長くやってる奴がエライというわけでもない。
 
 バリバリのローディーなんて基本的に自転車ショップにしか出没しなかったけど、ここ最近は自転車人口が増えたことにより一般のステージでも見かけるようになった。もしかしたら人ごみに石を投げればローディーに当たるのではないだろうか。その辺のスラリとした若者を捕まえると、ズボンの裾をまくればスネ毛は無く、腕まくりすればキズパワーパッドが貼ってあり、「脚質は?」と訊くと間髪入れずに応える。そんな人間は意外と多いのかもしれない。
 
 そんな昨今の自転車ブームを活動方法に取り入れた担当営業マンは、アホなのかカシコなのか。それは私が注文するかしないかにかかっているのだろう。カシコにしてやりたい気持ちはあるが、それはそれ、これはこれである。なかなか難しい。
 
 「今度レーパンで自転車に乗って営業しに来ます!」と言ったローディー営業マンのほうはアホである(笑)。
 

2

自転車を積む

 最近のミニバンのカタログには自転車を積み込んでラゲッジスペースの広さをアピールする写真が増えた。一昔前は背の高い観葉植物であったりゴルフバッグであったりしたのだが、これも時代の流れというものか。車椅子を積み込む写真もそういえば増えたように思う。
 
 先日も軽自動車にギュウギュウにロードバイクを積み込んで来られたお客さんが、「これ(自転車)を楽に積み込みできるクルマを探しに来ました」なんて言って展示車に積み込んだりしていた。ロードバイクに乗り始めて2年ほどだそう。自転車に合わせてクルマを買い換えたりするあたり、自転車によって生活が変わってきている典型的なパターンの人だ。おそらく今度はフルカーボンのフレームが欲しくなって、やがて部屋にはバイクラックなんかが置かれたりするのだろう。
 
 私が通勤に乗ってきたC59を見つけるのは時間の問題。「うわ、コルナゴですね!」と興奮気味に寄ってきて、持ち上げてみては「軽い!」と言ったり、カーボンフレームを指でコンコン弾きながら「いくらぐらいしたんですか?」と言ったりと、お決まりのコースを一通りクリアしてから、ああこの人もベタなロードバイク初心者かあと思った頃、自分の自転車をC59の横に並べて写真を撮りだしたときは新しいと思った。さらに「ぼくの自転車に乗ってみてください!」なんて言い出した時はさすがに閉口した。サイズも違うしペダルも違う。しかも私は仕事中。ツナギと安全靴では自転車には乗れない。自分のバイクのインプレでもして欲しかったのだろうか。ブレーキの握りしろはスカスカ、ヘッドはガタガタ、そんなバイクにはよう乗りません。
 
 なぜ自転車乗りってああやってグイグイ来る人が多いのだろうか。人見知りの私としては大変困る。まあとにかく事故には気をつけて楽しんで頂きたい。

若気

 学校を卒業してから6年ほど務めたディーラーを退職し、とあるプロショップへ転職した経験がある。整備士免許も持ってるし、6年もの整備経験と接客経験をもってすれば出来んことはないやろと、当時は随分と慢心していたなあと今になって思い返すことがある。自分の中ではどれだけ経験を積んだつもりであっても、別の会社に来ればそれは新人であり、もう少し謙虚な気持ちがあればもっと別の経験が出来たのではないかと思う。
 
 そのプロショップには勤続20年近くにもなる大先輩がいて、とにかく整備技術がすごかった。プロショップなのでディーラーではあまりやらない整備(エンジンオーバーホールやレストアなど)が多く、そういった仕事を手抜きなく、素早く、とても丁寧に仕上げ、その技術目当てで来られるお客さんが多かった。私はメカニックとしてその先輩を尊敬していたが、そこは自分の経験にも自身を持っている若造である。素直になって技術を盗めばいいものを、「自分ならこうする」「もっとこうやったら良くなるはず」などと、自分なりのアレンジを加えてやろうとするものだから失敗ばっかりであった。
 
 で、それを注意されるとなんだか自分の経験や人格までをも否定されたように勘違いして腐ってしまう。そんなことの繰り返しで、入社当初は楽しかったがしばらくして雰囲気にも慣れてくると、認めてもらえない歯がゆさに耐えられず、2年ほどで辞めてしまった。
 
 我々の職種はよく、「手に職が付いているからいいね」なんて言われることがある。確かに資格や経験が必要な職種であるから、それらが何もない場合よりは独立も再就職もしやすかろう。しかし、資格や経験が直接金を生むわけではない。本当に必要なのは順応性であると思う。順応性が無ければ本来自分を助けるはずの資格や経験が、逆に抵抗になったりする。武器が重すぎて身動きが取れない兵士のようだ。そして厄介なのは、手に職を持った技術者にはそういう人間が多いということだ。離職率の高さが証明している。
 
 我が社にもある程度経験を積んだ新人整備士がやってきた。即戦力になるので喜んでいたが、しばらくするとその順応性の無さに閉口する場面がちょくちょくと出てきた。と同時に彼もまた、私が経験した歯がゆさを感じ始めている時期なのかもしれない。昔の自分の姿と照らし合わせながら、その武器を一番良いほうへ向けてあげたい。
 

仕事のことなんかも

 ここでは自転車とかマラソンのこととかを書こうと思ってるけど、未だにFacebookもようわからんし、mixiはどんどん使いにくくなってくるし、いっちょ原点回帰ということでここ1本に絞ったろかなと思ってる今日この頃。まあ肩肘張らずに書きたいことを書きたい時に書きたい場所に書かせて頂きます。
 
 
 先日初めて来店される女性の方がやってきた。エアクリーンフィルター(エアコンのホコリ取りのフィルターのことです)を交換して欲しいとのこと。かなり低姿勢。お客さんやねんからもっと上から目線でもええよというぐらい低姿勢。
 
 よくよく話を聞いてみると、なんと福島から避難してこちらに引っ越してきたそうだ。小さなお子様も助手席のチャイルドシートに乗っている。近所のガソリンスタンドで同じ作業を依頼したら、福島ナンバーを見て断られたらしい。そんなことってほんまにあるんやね。風評被害ってものを目の当たりにした瞬間。それでわざわざ車庫証明を取って、車検証の住所変更をし、奈良ナンバーに変えてやってきたとのこと。
 
 「そんなクルマなんですけど診てもらえますか?」
 
 東北訛りでそう言われたら、なんか急に胸が熱くなってきて、もちろん引き受けた。別に黙ってたらわからんのにねえ。原発事故なんて貴方のせいではないのにねえ。なんでこのお母さんが我々に気を遣ってしゃべらなあかんのやろねえ。エアコンのフィルターには放射性物質が溜まりやすいということを以前から聞いていた。小さな子を持つ親としてはなるべくそんなフィルターは交換してしまいたかったのにねえ。
 
 放射性物質が付着したエアコンのまましばらく乗っていたわけだ。車庫証明が下りるのに1週間ほどかかるし、陸運局に出向くのも一般の方にとっては一日仕事である。その間じゅうずっと、この小さな子供は放射性物質の風を浴び続けていたのか…。そう思うと、なんか他人事だった原発事故が、急に目の前に立ちはだかったような気がしてやるせない。まだまだたくさんの子供たちが福島に住んでいて、避難のしようがない人だっている。
 
 そんな大きな問題を自分の力だけではどうしようもないけど、奈良に来たこの一組の親子に安心を与えられることが出来た。原発事故は起きてしまったのだからしょうがない。原発に依存してた我々にも責任があると言えばある。その責任を、ほんの少しだけれども分かち合えたような気がする。