『犯人に告ぐ』上・下 雫井脩介 双葉文庫

 雫井脩介連続記録更新中(笑)。『火の粉』『クローズドノート』と来てこの『犯人に告ぐ』である。代表作を3冊も読めば立派に「雫井脩介?あー知ってるよ」と言えるだろう。上下巻に分かれた長編作であったがスムーズに読むことができた。基本的に上下巻に分かれる本は、読了後の達成感が半減するような感じがして敬遠する傾向にあったのだが、読みたい本がそうなんだから仕方がない。
 
 巻島という50歳ぐらいの刑事が主人公。ストーリーの方は6年前に起こった幼児誘拐事件で犯人を取り逃がし、さらに釈明記者会見で失態を犯して田舎に左遷された経歴を持つ。そして6年後、新たに起こった連続幼児誘拐殺人事件。捜査は迷宮入りの様相を呈する中、犯人から警察を挑発するような内容の手紙が送られてくる。こういった劇場型犯罪に対抗するのは劇場型捜査しかあるまいと、テレビで犯人に呼びかけるという異例の操作方法に抜擢されたのが巻島刑事である。
 
 6年前の失敗を心に残したまま、新たな事件に取り組む寡黙な巻島の姿勢。警察内部の諸事情、捜査内容のリーク、自分の家族への影響、マスコミや世間からのバッシングなどなど、足を引っ張られる要素が満載なのにもかかわらず、この巻島の取り組み姿勢は本当に頭がさがる思いである。そして主人公に感情移入させたら雫井脩介は天才的だなと思う。
 
 登場人物のキャラクターはある意味ベタなのだ。正義感あふれる刑事、それを指揮するうるさい上司、手柄を横取りしようとするズル賢いヤツ、温かい理解者、愛する家族。そしてそれらがラストに向けてベタな収束へと進む。それが私にとってはとても安心して読むことができるのだ。ヒットするハリウッド映画は、必ずヒーローとヒロインがメインで、悪者がいて裏切り者がいて、協力者が現れ、最後は必ずハッピーエンドという構図である。雫井脩介もその構図を外れない。だからいいのかもしれない。
 
 この作品もとてもおもしろかった。今のところ雫井脩介にハズレなしである。
 
 余談だが、雫井脩介の作品の巻末には参考文献が何冊も紹介され、協力者の名前も挙げて感謝の意を述べている。マラソンで言うとゴール後に振り向いてコースにお辞儀をするような感じがして好感が持てる。そういや伊坂幸太郎もそうだったな。