『火の粉』 雫井脩介 幻冬舎

 雫井脩介(しずくいしゅうすけ)という作家を、私は全く知らなかった。代表作も知らないし、名前も聞いたこともない。それが本屋の一番目立つところに平積みにされていて、しかも手書きのPOPで「一気読み!」だの「面白い!」だのと書かれている。手にとって見てみると初版は平成16年とあるからもう9年前である。最近映画化されたわけでもないそんな作品が今更本屋のイチオシとなるなんて何かあるのだろうかと、半分騙された気分で読んでみた。
 
 感想から書くと、メチャメチャ面白かった。サスペンスミステリーな感じなので、面白いというか“怖い”のが本心だが、600頁弱の分厚さにもかかわらず本当に一気読みで、読むのが遅くて有名な(?)私でも正味たったの2日で読み終えてしまった。本屋のPOP効果に協力する形となってしまって天邪鬼の私としては納得のいかない部分も正直あったのだが、素直に書店店員のPOPに従ってみるのもいいもんだなと思った。
 
 物語は裁判シーンから始まる。一家惨殺の凶悪事件の容疑者である武内に、証拠不十分として無罪判決を下した裁判官の梶間勳が主人公。冤罪を免れた武内はその恩を返すべく、裁判官引退後の梶間家の隣に引っ越してきて溢れんばかりの善意を持って梶間家に尽力する。ところがその親切も度を越してきて、やがては武内の素性が明らかになっていく・・・・というストーリー。
 
 物語には、梶間の妻が義母の介護をするシーンや、梶間の息子の嫁が子育てに苦労しているシーンなんかがあり、とても女性の心理描写が上手だなと思った。まるで女性作家かなと思うぐらいだ。そういう女性ばかりが苦労している家庭に武内はスッと入り込んできて、介護を手伝ったり、子供の面倒を見てあげたりして、一気に株を上げていく。
 
 反対に梶間家の男性陣はなんだか頼りなく、特に息子の俊郎は最後の最後までアホであった。武内の二重人格性も怖いことは怖いが、こういった家庭内における男性陣の頼りなさ、無関心さもある意味怖い。結果的に梶間家全体に危険が及ぶことになった。
 
 ストーリーは盛り上がり、その勢いでどんどん進む。残り頁数が少なくなってくるに連れてどんなラストが待っているのかと少々心配になったが、予想をいい方へ裏切る衝撃的なラストだった。最近は万人受けするような“ユルい”ラストのミステリーばかりだったので、こういう「いかにもサスペンスホラー!」という感じのラストは逆に新鮮でスカッとした。
 
 これはオススメです。恐らく、サスペンス好きの30~50台の女性は面白いと感じてもらえるのではないでしょうか。

『火の粉』 雫井脩介 幻冬舎” への4件のフィードバック

  1. これ読みましたが、けっこういいですよね(^^)
    「犯人に告ぐ」や「ビターブラッド(こちらは軽い感じ)」
    もけっこう面白かったです。私もKindleオススメします。

  2. コナさん、ぼくの紹介で本を選んでくれたなんてなんだか嬉しいです(笑)。また感想を聞かせて下さい。

  3. カナタニさん、「犯人に告ぐ」は今読んでるところです。すっかりファンになってしまいました(笑)。

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