『禁断の魔術』 東野圭吾 文春文庫

 ガリレオシリーズ最新作。本の帯に東野圭吾本人により、「間違いなくこれはガリレオシリーズ最高峰です!」みたいなことが書かれている。こういうことを書いた本人が言うのか~と少々冷めた気持ちで手に取ったのではあるが、理由を調べてみて納得。当初短編集の一作品として発表する予定だったのだが、アイデアが湧き出るように膨らみ、一つの長編へと“出世”したというのである。産んだ親にしかわからない気持ちであろう。しかし読者にはあんまりその辺の事情は関係ない(笑)。
 
 ストーリーはそんなに難しいものではない。科学者を目指している若者が、湯川の協力の下レールガンという装置を開発。当初はパフォーマンス用に作られたのだが、若者の姉が謎の死を遂げ、その真相を若者が独自に捜査。姉を見殺しにした者に復讐するためレールガンを使おうとする、というもの。
 
 自分が開発に携わった装置が殺人に使われるかも知れないという事実と、自分の後輩である科学者の卵が殺人を犯すかもしれないという、科学者(正しくは物理学者)そして後輩を想う先輩としての湯川の苦悩を描いている。
 
 若者が働いている小さな町工場でレールガンの精度を上げるために徹夜して作業している姿、そしてそれを見守る無知で純粋な彼女。なんだか同じく小さな町工場で精度の高い拳銃を自作する男が登場する『白夜行』に似ているなあと思いながら読み進める。
 
 ミステリー自体は軽く解決したものの、ラストシーンでの若者と湯川のやり取りがクライマックス。「科学者とはなんぞや」を教えてもらったようで、自分も科学者なら共感したであろう場面である。
 
 ガリレオシリーズは基本的にストーリーの構造がほぼ同じ。それはつまらないというわけではなくて、安心して読み進めることができる。個人的には好きなシリーズです。