『紙の月』 角田光代 ハルキ文庫

 突然だが、私は宮沢りえが好きである。この作品は最近宮沢りえ主演で映画化されたので、普段映像化反対派のくせにこれだけは宮沢りえ目当てで観に行こうと思っていたぐらいである。しかしゆっくり映画を観に行くような時間を捻出しようとすると色々と弊害が出るもので、そんなときに本屋をぶらついたらこの原作本が平積みされていたので手に取った次第である。
 
 大まかなストーリーとしては、銀行勤めのアラフォー女性が客の金を着服し、若い大学生の男に貢ぐという話である。ほんとに大まかすぎてこの作品のファンの方々には申し訳ないぐらい大まかなんだけど、そんなとこである。
 
 主人公の梅澤梨花の表情や態度や声の想像が宮沢りえにすっと合わせることができ、大変読みやすく感じた。ところが内容的にはとてもリアルで心理描写がしつこいほど詳細。時には深く共感、時には逆に不快に感じることがあるほどであった。
 
 基本的には真面目で平凡な暮らしをしている梅澤梨花が、だんだんと男と金に振り回されるようになっていく過程を描いているのだが、段落段落での梅澤梨花のかつての親友や元カレなどの現在のエピソード、そして指名手配された梅澤梨花を思う心理などもこれまた詳細で、さすがの筆力という感じである。
 
 私は梅澤梨花と同年齢ではあるが男性なので、女性はまた違う感じ方をするかもしれない。梅澤梨花に共感できる部分は客の金に手を付け始めた序盤から中盤辺りのみであるが、女性は最初から最後まで共感し続ける人がいるだろう。梅澤梨花と似た境遇にある人はたくさんいるだろうし、もしかしたらそう遠くないところに同じような人がいるかもしれない。
 
 これを読んだ同年代の女性と語り合ってみたいものである。