『マスカレード・イブ』 東野圭吾 集英社

 前作の『マスカレード・ホテル』を読んで、正直、新キャラと言われるほどのキャラクター性を感じなかった新人刑事新田とホテルマン尚美だったので、続編であるこの本を買おうかどうしようか迷っていたのだが、ちょうど東京へ出張があり、新幹線の中で読むために半ば衝動的に駅の本屋で手に取ったのがこの本であった。
 
 作品の出版順としては『~ホテル』の次に『~イブ』となるわけだが、内容的には『~イブ』のほうが時間的に前になり、新田と尚美が出会う前の設定になっている。基本的な構造としては、ホテルと警察で起こる事件や問題を、新田と尚美それぞれのエピソードとして独立させた短篇集となっており、後半につれて登場人物や伏線が絡められてくるという、連ドラお決まりの手法である(笑)。
 
 「お客様の仮面(マスカレード)を剥いではならない」というホテルマンとしての使命と、「容疑者の仮面を剥いていく」という刑事の使命が相反するところがこのシリーズの面白いところではないかと思う。とはいえ、刑事に協力したい正義感に溢れた尚美は、お客様のプライベートに関することまで少し介入したりする。新田は新人刑事という役回りで、そういう尚美に対して辟易したり一目置いたりするわけである。
 
 この2人が主人公の連ドラの制作はそう遠くないであろう。それほど人物描写が映像に表現しにくいというわけでもないし、ストーリーも難解なものではない。今が旬な俳優を男女2人立てればソコソコの視聴率は得られるのではないか。この作品を読んでいるあいだは常にそんなことをアタマの片隅で考えながら読んでいた。
 
 つまり、どっぷり物語にハマってしまうような作品でもないかなというのが感想。最近の東野圭吾作品は、読みやすくて軽やかな感じになってきた。それはそれでいいのだが、『白夜行』とか『手紙』のようなしっかり読ませる作品もそろそろ期待したいのである。