『幸福な生活』 百田尚樹 祥伝社

 話題の百田尚樹の新作。百田尚樹ならハズレはないだろうと手に取った。何度も言うようだけど、百田尚樹はちょっとノンフィクション作家の感じである。歴史上や現代の事実に基づいて物語を構成していくところなど、やはりテレビ出身の人だなあという感じである。ところがこの『幸福な生活』は今までの長編ノンフィクションではなく、夫婦にまつわる物語を収録したショートショート的なことになっている。
 
 少ない時間でキリのいいところまで読めるショートショートが昔から好きだったので、深い思慮もなくこの本を取ったにもかかわらずラッキーであった。笑いあり涙あり、ときにはSFチックな話もあり、改めて百田尚樹の懐の深さを知る。物語最後の一行が次の頁の最初に来るように編集されていて、真っ白な頁にたった一行だけのセリフが、恐くもあり面白くもあり意味深くもあり、読んでいる者に不思議な余韻を与えてくれる。まるで落語のオチのような感じで、本当に百田尚樹はエンターテイナーだなと感じさせる。
 
 全部で19編収録されており、それら全てが夫婦にまつわる物語となっているので、まさにヨメコドモのいる私のような世代にハマるものが多い。個人的には『豹変』と『ママの魅力』が気に入っている。
 
 『豹変』は、不妊に悩む若い夫婦の物語。妻に内緒で診察に行き、閉塞性無精子症と診断された夫が、どうやって愛する妻にこの事実を話そうかと悩みながら帰宅すると、思いの外機嫌の良い妻が放った言葉は・・・・。
 
 『ママの魅力』は、ガリガリの夫と巨体の妻が登場。その見かけによらずゴキブリなどが出ると「キャー!」と言って夫に抱きつくブリっ子ママの姿を見て呆れる小3の息子。ある日、放し飼いにされた土佐犬に襲われた息子。荒れ狂う土佐犬の前に立ちはだかった巨体妻の取った行動は・・・・。
 
 電車の中や家事の合間にちょっと読むのがオススメの本です。