オキナワレポート その4

 必死のパッチで源河を上り切り、一気に下ったらさっきまでいた周りの人たちがいなくなっていた。後ろに下がったのか前へ行かれたのか、全く気づかなかった。つまり自分の脚はここで終わった。

 ここからの残り10kmは今まで走った10kmの中で一番長くて苦しかった。脚どころか腕も腰も全てに力が入らない。補給ミスではない。アンパンも少しづつ食べていたし、ゼリーも2本飲んだし。とにかく全身が疲れきって首を上げるのさえ辛い。

 だからメーターばかりを見ていた。100m進むごとにため息が出る。残り5kmの看板が見えても嬉しくも何ともない。だってその5kmが異常に長い。かろうじて追い風だったので35km/hほど出ていたが、爽快でもなんでもない。

 誰かに「一緒に回して行きましょう!」と声をかけられた気がする。20人ぐらいの集団に抜かれた気がする。自分が交差点を通過するたびに、警察がわざわざ交通の流れを止めてくれる。沿道の人たちが応援してくれる。「ガンバレーー!!チバリヨーーー!」って。

 「回さんでええよ。勝手に行けよ・・・・」
 「・・・・別に止めんでもええよ。信号待ちするよ・・・・」
 「もうええって・・・・。『おつかれさまー!』とかにしてくれよ・・・・」

 フラフラになってゴールした。とは言ってもゴールラインがどこなのかさえわからなかった。パワータグの「ピッ」って音が聞こえた気がするから多分あの辺りだったのだろう。

 名護市民会館の広場をフラフラと歩いていたら先にゴールしてたナカハラくんに声をかけられた。迷子になって不安なときに親の顔を見つけて安堵するような気分。2時間ちょっとしか離れてなかったのに、ものすごく久しぶりに会った気がした。

 それからしばらく経ってイノウエさんがゴールした。そこからはもう3人で笑い通しだった。落車やケガ、DNFにならずにすんで本当に良かった。さっきまでの苦しさが、思い返すたびに楽しさに変わっていくあの感じは言葉では表しようがない。

 自転車の楽しみ方はいろいろある。ツーリングが楽しい人もいれば機材に凝る人もいる。レースだってヒルクライムからクリテリウムまでいろんな種類がある。そんなたくさんの自転車の楽しみ方の一つに、「オキナワ」を追加したいと思う。それぐらいに中身の濃いイベントだった。これだけの為に1年を費やしてもいいと思った。

 いろんな犠牲を伴うけれど、「オキナワ」はそれだけの価値があります。「オキナワ」に行ったら“格”が上がった気がします。「オキナワ」はエエとこです。なかなか難しいことかもしれないけれど、自転車仲間みんなで「オキナワ」を走りたい。

 『来年も 行ったってもエエよ オキナワへ』

 みんなありがとう!



 ↑ 苦楽を共にしたケルビム号。最新カーボンバイクをたくさん抜いたけど、ダブルレバーの旧型自転車にも抜かれた。自転車はエンジンです。



 ↑ 打ち上げ会場へ。たくさん写真を撮ったけど、何故かこのピンボケ写真がお気に入り。



 ↑ サンセット。我々を焼いた太陽は、今日も何事もなかったように沈んで行く。

オキナワレポート その3

 イノウエさんがいなくなってから約30kmの間、足の揃った10人パックで走行していた。高低図で見ると基本的に下りだが、細かく上ったり下ったりしているのでここはとにかくこの集団で距離を稼ごうと思った。どうやら他の人とも利害は一致するようで、上りの得意な人、下りの得意な人、それぞれの得意なステージで小さな逃げがあったりするが、結局また集団で走行する。

 この辺りからメーターの距離計が気になってきた。まだ全工程の半分ぐらいである。残りの距離に思いを馳せてガックリした。とにかく距離計を積算させることだけがこの区間の生きがいだった。

 海岸線まで下って少し上りになったときに、ついに集団がバラけて3人になった。他の2人は同じチーム。違うのは自分だけ。3人でローテしていても明らかに自分が引く時間が長い。まんまと作戦にハメられている。腹が立ったぜ。でもこんな2人、オレ独りでなんとかしてやる!そんな気持ちで漕いでいた。

 先頭に出て海からの強風にあおられながら走っていると、沿道の家からたくさんの人々が出てきてくれていて声をかけてくれる。その中に、自分の息子と同じぐらいの子が悲鳴に近いような大きな声で、私に向かって「ガンバレーーー!!!」って叫んでいた。

 その瞬間、熱いものが込み上げてきて涙が出そうになった。応援してくれて嬉しいってのもあるし、こんなとこまできて自転車で遊んでるっていう罪悪感もあるし、チームメイトがいないっていう寂しさもあるし、なんだかいろんな感情が一気に押し寄せてきた。ここから先は自分の喜怒哀楽のスイッチがおかしくなる。

 で、いよいよ源河の上り。距離は大したことは無いけど斜度が清滝並み。こう書くとこれまた大したことの無いように聞こえるが、ここまで必死に漕いできた者にとっては激坂以外の何者でもない。2回目の補給ポイントで水をもらった。

 長年使ってきたポラールのボトルを投げ捨てようと右手で掴んだその時、走馬灯のようにそのボトルとの思い出が蘇ってきて(ボトルとの思い出って言ってもなんてことはないが)急に寂しくなった。しかし水がないと走れない。愛用のボトルを断腸の思いで投げ捨てた。また泣きそうになった。感情の起伏が激しい。

 まだまだつづくぜゴメン。



 ↑ スタート前。ホテルの体育館で準備中。緊張のせいか全く会話がなかった(笑)。

オキナワレポート その2

 上り坂に入って一気に周りの人数が減った。さっきまでの集団はドコへ行ったのだろうか。追い風と集団によって“他力で”高速走行していた人間はあっという間に後ろに下がってしまう。ここからは本当の力が試されるのだ。

 軽めのギヤをぐんぐん回しながら必死で前を追った。イノウエさんもナカハラくんも調子が良いみたいだった。ナカハラくんはともかくイノウエさんには追い付きたい。正直そんな気持ちだった。はやる気持ちにブレーキをかけつつ、かと言ってのんびりも走ってられない、そんな気持ちの葛藤の中で必死に走った。

 いくつものカーブを曲がっては探し、探してはカーブを曲がる・・・。何度も何度も繰り返してようやくのイノウエさん発見。ひとつ目のピークまでには並走することが出来た。ここからフンガー湖にかかる橋まで高度差約155mを一気に下る。まるでジェットコースターのようだった。「下りが爽快だ」なんてツーリングの時だけである。70km/hを超える速度で下っているのに、それでも抜きにかかってくる自転車がいるのだ。どこでそんな練習をしているのか知らないが、落車するなら是非単独でお願いしたい。

 下ったのも束の間、また上らされる。下りの時のドキドキが、上りに入ってからも続いていた。ペダリングに合わせて早く呼吸してしまっていたので浅い。大きく吸って、大きく吐くことを心がけて呼吸を整えた。すると調子が良くなった。1回目の補給ポイントで水とスポーツドリンクを配っていたがパス。そんなことよりこのペースを乱さないで欲しいと思った。

 ペースが安定してくると周りを見る余裕が出てきた。少し斜め後ろにイノウエさん。そして振り向くと20人ぐらいの集団が私の後ろについていた。我々は知らない間にペースメーカーにされていたようだ。

 「うわ、後ろスゲー」と、集団を引っ張っている錯覚に陥って少し気分が良くなった。このことを教えてやろうと改めてイノウエさんの方を見やると・・・・。


 し・・・・白目むいてる!?


 「だ、大丈夫!?」
 「うん・・・・ナントカ・・・・」

 ペースを落としてあげればよかった。結局自分のことしか考えてなかった。実力差はほとんど無いはずだったのに、やっぱりその時の微妙な体調の違いとか、ペース配分とかを考えていなかった。一緒に練習したつもりでいても、信号で止まることも無い、自販機でジュースを買うことも無い、本格的なロードレースではまだまだ初心者だった。

 「ゴメン!足攣った!先行って!!」

 その声を聞いた途端、何かに弾かれたように集団から逃げた。イノウエさんから早く逃げたかったのかもしれない。ここから先、ゴールまでイノウエさんと会うことはなかった。ゴールに着いたときのイノウエさんの右のフトモモには安全ピンが刺さったままだった。

 つづく。



 ↑ 前日の試走の際に撮った下り坂。レース本番では反対車線も使えるのだけど、ついつい左車線だけで走ってしまう。



 ↑ “安全ピン”を“危険ピン”にした男。レースから一夜明けた朝。ホテルのプライベートビーチにて。

オキナワレポート その1

 300人の大集団は辺戸岬からの海岸線(国道58号線)を強い追い風に乗って60km/h近いスピードで南下していた。普通ならビビってしまう速度だが、前にはイノウエさん、後ろにはナカハラくん、そして隣にはローラーアニキだっている。とても心強い。独りではこんな速度の大集団には入れなかっただろうし、そもそも自分独りの力ではスタートラインにさえ立てなかっただろうと思う。

 ここでは書ききれないほど大勢の人の力を借りて、今ここで、こんな速度で走っているのかと思うと、感謝の気持ちとスリル感とが相まって、思わず「楽しいなあ!」と叫んでしまった。そしたらイノウエさんも「楽しいなあ!」って。ホントに楽しかった。

 脚がメチャクチャ軽い。息も全然乱れてない。前のヤツが少々ふらついたって、仮に落車したってラクショーで避けれる自信があった。乗れてる!人馬一体とはこのことや!ものすごい調子がエエ!このまま空だって飛べそうなイキオイや!

 やがて集団は大きく左へカーブしていよいよ上りへ。距離約7.7km、高度差約330m。我々が走っている市民85kmクラスでは最初の難関である。木馬メンバー3人は順調だった。前日試走した時にローラーアニキに教えてもらった「最初の斜度が緩い所でトバし過ぎたら後が続かない」との助言を守り、3人のペースを合わせて黙々と上った。

 ドキドキした。これまでこのオキナワを想定して一緒に練習してきた甲斐があったと思った。一緒に上れてる!一緒のペースで上れてる!よっしゃイク是!とフロントをアウターからインナーに落としたその瞬間・・・・・!

 チェーン外れた・・・・・。

 普段はこんなミスなんてしないのに、どうやら舞い上がっていたようだ。走りながらなんとかリカバリーしようとクランクをカラカラ回すがなかなかチェーンがかかってくれない。増してきた斜度とは反対に、落ちてきた速度は自転車を自立させられなくなってしまい、ついに足を着いてクランクを手で回してチェーンをかけた。

 パニックになりかけたが、後ろから来たローラーアニキに「マエくん落ち着いて!」と声をかけられハッとした。そうやん。まだ20kmも走ってへんやん。イノウエさんとナカハラくんは先に行ってしまったけど追い付く追い付く。まだまだ先は長いんや。

 とはいえ不安は拭いきれない。さっきまで一緒に走っていた仲間がいなくなった。チェーンが外れたときは自分が最後尾を走っていたから、2人は私が遅れた理由をわかっていないだろう。余計な不安を与えてはいけない。早く追いつくのが先決か、とりあえずマイペースで息を整えるのが先決か。しかしこの先、ナカハラくんとはゴールの名護市民会館まで会うことはなかった。

 つづく。



 ↑ 前日の試走にて。国道58号線。北に向かって走っている写真なので向かい風がすごい。ちなみに市民85kmのコースマップはこちら

最後のアタック

 来たぜ宝山寺。ココを差し置いて神頼みは無い。フンパツして500円放り込んだ。これでオキナワはオレのもん。

 しっかしココの激坂は極悪。ひっさしぶりに「足ついたら死ぬルール」発動。なんとかルール遵守できた。チョモ神様頼んます!

神頼み練行って来た



 ここで何回写真を撮っただろう。何人の自転車乗りが撮っただろう。“ゴールに着いて写真を撮りたくなる峠ナンバー1”とちゃうか。

 帰りは滝方面へ下って、市街地をブラブラして伊丹空港へ。飛行機のデカさに目を慣らしておかないと、余計なところで緊張してもアカンからね。



 空港へ来るとオットコマエになった気がするのはなんでだろ。

神頼み練

 明日水曜日、最後の最後「神頼み練」に行きます。勝尾寺で神頼み後、伊丹空港へ表敬訪問。飛行機に心を慣れさせておかなければ。のんびり流すつもり。約50km弱、7時頃出発、午前中には余裕で帰ってくるつもり。昼からは昼寝のつもり。誰か一緒に行こう税!!

『銀輪の覇者』



 今読んでる本。読書の秋ですね。自転車ネタな物語なので読みやすくて面白い。ローディーなアニキアネキにはおすすめ。

 物語には関係ない話だけど、自転車のことを「銀輪」って表現する。車輪のことをそう言っているのだと思うけど、リムもスポークもハブもみんなシルバーのシンプルなホイールって最近ないよね。黒とか赤とかが多い。

 まあだからこそ「銀輪=古い型の自転車」という捉え方でええのかな。最近の自転車をそういう表現で言うならどういうのがいいだろう。「黒輪」ってのはフツー過ぎる。ヒネリもクソもない。カーボンホイールも多いから「炭輪」ってのはどうだ。焼肉屋か。

やってられへん

 今朝、通勤途中のR163が大渋滞してた。自分は自転車なので歩道を走りながら何が原因やと数珠繋ぎのクルマの列をスイスイ進んでいくと、前方に左に大きく傾いた4tのパネルバントラックが停まってた。

 ああパンクかなとそのトラックに近付いたけど違う。どうやら荷室に積み上げてた荷物が崩れて全部左側に倒れてるみたい。トラックの荷台はグンニャリ変形してる。運転手が荷台に乗ってなんとか元に戻そうとしてるけどそれは無理やろ。ていうか危ないよ。トラックごと今にも倒れそう。

 燃料が高騰して運賃も給料も下げられて、積み上げも積み下ろしも全部運ちゃんがやらされて、さらにこの仕打ち。時間に遅れるわ修理代弁償せなアカンわ、後ろからクラクション鳴らされまくってるわ。

 トラックの運ちゃんは大変や。もしかしたら今日本で一番大変な仕事かもしれない。遅い自転車が車道走ってたら幅寄せもしたなるわな。

 そんな中、沖縄に行きます。幸せモンですわ。

お先に行ってらっしゃい



 思ったより箱の中がスカスカなのでなんか忘れ物してる気がする。



で、明日から通勤アタックはコレで。

 まずはダンボールを用意してくれたり梱包を手伝ってくれた回転木馬と、沖縄まで運んでくれる運送関係の人に感謝。