『モンスター』 百田尚樹 幻冬舎

 以前読んだ『永遠の0』や、『風の中のマリア』でお馴染み百田尚樹。この人の本はストーリーの中に、取り上げられる題材についての解説書かと思うぐらいの詳細な記述があって、小説なのか解説書なのかどっち付かずな文章に慣れるまでは違和感があったりするけど、私も百田尚樹3作目ともなれば予備知識は十分である。太平洋戦争の神風特攻隊の物語、スズメバチの物語ときて、今回の『モンスター』は、醜い顔を持って生まれた女性が整形手術によって美人になって行くというストーリーである。
 
 主人公は小学生時代からブサイクなことでひどく虐められ続けていた。ひょんなことからやってみた二重まぶたの手術をきっかけに美容整形にハマっていく。綺麗になるにつれて周りの男達の反応が変わっていく様がやけにリアルである。
 
 今回は美容整形に関する施術方法や、人が「美しい」と感じる顔の形などの記述が豊富で、男の私としては大変興味深く読んだ。主人公の女性を「私」という一人称を用いて常に主人公目線で物語が進んでいくので、整形後の感動や違和感、痛みや入院期間や施術費用まで、まるで自分が整形手術をしたかのように思えて、きちんと丁寧に取材したんだろうなという印象がある。
 
 ただ、やっぱりそこは男の筆で書かれているので、もしかしたら女性がこれを読むと、整形手術に感する情報は参考になると思うが、本当の女性の心理は少し違ったものなのじゃないかなと思った。それよりも、美人に変身した主人公を口説き落とそうとする男性の滑稽さが目立ち、思わず赤面してしまう男性も多いのではないだろうか。
 
 ストーリー自体は淡々と進んでいく。特にどんでん返しがあるわけでもなく、あ~自分だったらここでこんな事件を用意するだろうなあなんて考えながらのところがあったが、この物語はミステリーでもなんでもなく、「美人は得をし、ブスは損をする」という社会のタブーというか常識というか、そういうちょっとグレーなところを突いた作品ではないかと思う。
 
 個人的にはラストのエピローグはいらんかなと思う。中村うさぎの解説は秀逸。やはり美容整形に関しては、男性目線と女性目線では少し違うと思った。この作品、ヨメに薦めてみようと思います(笑)。