ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどの自転車レースの映像や写真を見ると、観客がコースの中程まで出てきて、お目当ての選手に触れんばかりに近付き声援を送っているシーンを良く見かける。山岳コースでの上り坂なんて、必死に上る選手の背中を押している人もいるんではないだろうか。
自転車に乗車中に背中を押されるとバランスを崩して危ないとか、「ガンバレー!」と叫ぶ観客に対して「言われんでもガンバっとるわい!」というような腹立たしさもあるだろうが、まああれだけ応援されて嬉しくないことはないと思う。
私は自転車で通勤した日、仕事の疲れが残っていなかったり、体調が良かったりすると、少し遠回りにはなるが、会社から阪奈道路をひたすら上り、生駒山上を経由して帰宅する。この季節になると、仕事が終わってもまだ明るく、新緑の香りも漂ってきて非常に気持ちが良い。
と同時に、路肩の茂みに絡まったツタ(のようなもの)が大きく成長を始める季節でもある。
そいつらは私がせっかく機嫌良く自転車に乗っているのに、視界の外から不意に現れ、私の顔や腕や足をバシバシと叩いていくのだ。下り坂でスピードが出ているときには本当に良く注意しないと、痛さと驚きのあまり落車する危険もある。
しかし、普段は障害物以外の何物でもない路肩から大きく張り出した名も知らぬ植物も、自分の気持ちの持ちようで、必死に走る私を応援してくれている観客に見えなくもない。上り坂で頑張り過ぎ、酸欠状態で虚ろになった目に飛び込んでくるのは、私に向かって手を振り、声援を送ってくれる観客だ。気が付けば沿道はいつしか私のファンで一杯である。
「ガンバレー!!」
「行けー!!」
「もっと回転上げろー!!」
肩や背中をバシバシと叩かれながら、「うぉりゃあぁぁ!!」と、ひとり声を出し、ペダル回転数が少し上がるだなんて、我ながら妄想上手である。後はゴール地点で待っている、愛する妻と子供のもとへ飛び込むだけだ。
「ヨッシャ!山岳賞や!」と自宅前にフラフラになって到着。しかし祝福してくれる人なんて誰もいない。さっきのファンの声援はどこに行ってしまったのだろうか。
脳内アドレナリンがなくなっていくにつれ、自分のカラダがくっつき虫とカメムシだらけになっているのに気付くのでした。