雨である。朝からしっかりと雨が降っている。しかし雨だろうと風だろうと、愛する家族の為に山越え自転車通勤をしないといけないわけで、泣き言を言ってる場合ではない。
163号線や清滝峠、そして阪奈道路を朝っぱらから雨の中、傘も差さずに車道を自転車で疾走している奇特なやつなんている筈もなく、通学する女子高生やクルマの運転手は私を見て、ただの自転車バカだと思っていることだろう。
しかし、私がひとたび妄想の世界に入ってしまえば、「バカはお前たちなのだよ!」と言いたくなる。
バスから見ているサラリーマン!悔しかったら自転車乗ってみぃ!オレの方が速いぞー!
珍しいものを見るかのようにしている女子高生!きっとお前の彼氏よりオレの方が持続力あるぞー!
窓からタバコの吸殻を捨てるトラック!お前なんか肺ガンで死んでしまえー!
ワケもなく幅寄せしたりクラクションを鳴らす運転手!きっとお前らよりも長生きしたるからなー!
人やクルマだけではない。ボトルの口まで砂だらけにする水溜り、ツルツル滑る側溝のフタ、ムチのように私の左腕をたたく植物、ビシビシと顔を打つ水しぶき、必死に上る私を後ろから引っ張る重たいバッグ・・・。全てが私の敵である。男子たるもの玄関を一歩出れば敵が7人いると言うが、7人どころではない。全てが、そう、雨の日は周りのもの全てが敵である。
味方はたった一人。私の股の下で左右に揺れながら私と一緒に進む赤い自転車。
この雨の中、パンクもせず、スリップダウンもせず、文句一つ言わず黙々と私を乗せて走る赤い自転車。
何てけなげで何ていじらしくて何て頼もしいのだろう。そんなお前を「清滝最速マシン」にしてやりたかったが、どうもムリのようだ・・・。私の息子がお前に乗れるようになったら、その時はまた頼んだよ・・・。ああ・・・眠たくなってきた・・・。
「パトラッシュ、ボクはもう疲れたよ・・・」
・・・そんなことを言ってるうちに会社に到着する。妄想は通勤時間も短く感じさせる。