失明くん

 私には5歳か6歳ぐらいの男の子の友達がいて、

 よく2人で遊んでいたから、私もその夢の中ではそれぐらいの歳だったのかもしれない。

 ところがある日、その男の子が急性の白内障で入院することになり、

 会えなくなってしまった。

 後日、私は母親から彼は失明したということを聞かされた。

 その事実がとても恐くて、受け入れることが出来ずにお見舞いも行けなかった。

 それでもようやく1週間ぶりぐらいに彼の元を訪れた。

 病室のドアを開けると、白内障だとは思えないきれいな黒い瞳で私の方を向き、

 「来てくれたん」

 と、にっこり笑って静かに言った。

 私は何を思ったのか、

 「よっ、失明くん」と言った。

 そう言ってから急に涙があふれて来て、彼を抱き締めて大声で泣いた。

 「かわいそう!かわいそう!」

 と言って泣く私の両肩を持って彼は、

 「かわいそうとちゃう!」と言った。

 「友達が帰って来てくれたんやから、かわいそうとちゃう!」

 と、大きな声で言った。

 そこで目が覚めた。すごいリアルだった。

 男の子の不憫さと、夢だったという安心感で、また涙が出てきた。

 私は夢の中で、その男の子を「宗ちゃん」と呼んでいた。

 間違いなく「宗ちゃん」と呼んでいた。

 すごく恐くなって、息子を見た。

 嫁の腕枕ですやすやと眠っている。

 数え切れない程の偶然と奇跡が重なって、

 五体満足で健康な子供を授かったことに、

 今更ながら感謝してしまう。

 たとえ失明したとしても、たとえ亡くなったとしても、

 それは「かわいそう」ではなく、「運命」なんだと思った。

 「健康な内に」「生きてる内に」というわけではないけど、

 たくさん遊んであげて、たくさん本を読んであげて、

 たくさんいろんなことを教えてあげたい。

 そんなことを考えてたら眠れなくなってしまった。