中学生の頃行った修学旅行で、宿泊したホテルのロビーにフォークギターが置いてあり、弾けもしないのに手に取って「ボロロロ〜ン」と鳴らした。その音色の美しさにいっぺんに惚れてしまって、旅行から帰ってからオカンに頼み込んで安い(3万円ぐらい)のギターを買ってもらった。
「ギターが弾けたら絶対モテる」という信念の元、毎日毎日必死で練習して、初めて弾き語れるようになった曲は長渕剛の『とんぼ』。次は同じく長渕の『ろくなもんじゃねえ』。とにかく長渕を練習しまくった。ギター弾きながらブルースハープを吹き鳴らして『巡恋歌』を文化祭でソロで熱唱したこともあった。
長渕の曲をシングル曲からアルバム曲まで全て弾けるようになって初めて気が付いた。
「長渕ではモテない」
それでも私は「楽器が弾けたらモテる」という信念を持ち続け、次に目に付いた楽器はピアノだった。高校時代からの親友の結婚式披露宴で、私がピアノ演奏するということになったのが全ての始まりである。酔った勢いで言ったのに、友人は披露宴会場に1回のレンタル料5万円の高級ピアノを予約してしまった。
こうなったら断るわけにもいかず、友達から安モンの電子ピアノを借りて来て、当時キムタクがドラマで弾いてた『セナのピアノ』を必死で独学で練習した。楽譜には全て「ド」とか「ファ」とか書き込み、反復記号の意味がわからないからCDを何度も聞いて「耳コピ」して、何とか披露宴当日は大成功に終わった。新郎新婦よりも注目を集めた。今だから言うがあの時は悪いけど、
「ホンマにモテた」
長渕の比では無い。しかし私はそんなことで寄って来るオンナには目もくれず、初めて弾いた「本物のピアノ」に惚れ込んでしまい、ピアノを習いに行くことにした。確か25歳だったと思う。それからは真面目にピアノに打ち込み、発表会には2回出た。1回目はベートーベンの『月光』で。2回目はショパンの『ノクターン』で。
モテ続けた。ピアノはおススメである。
「ピアノが弾けるオトコ」に引っかかった女性の一人「嫁」。その嫁と結婚する際に、調子に乗って披露宴で弾いた曲が『ノクターン9の2』。ところが、緊張しまくって
「大失敗!!」
それ以来ピアノからは足を洗った。
今日、仕事から帰宅したら珍しく嫁がピアノクラシックのCDをかけていた。いつもはしょーもないテレビ番組なのに。なんだか懐かしくて聞き入ってしまって、「ピアノもう一度やってみようかな」って気になった。息子に教えてやれるぐらいにはなろうかな。
いままで私を突き動かして来たものは「モテたい」という気持ちだったかもしれない。
でも今は、確実に息子である。