『真夏の方程式』 東野圭吾 文春文庫

 ガリレオシリーズ最新作。この6月末頃に映画が公開されて話題になったけど、映像化反対キャンペーン中の私としては活字のほうがやはりいい。とはいえテレビCMなんかで福山雅治とか杏がばんばん出演しているので、どうしても脳内で、湯川学の顔は福山雅治に、そして今回の物語のヒロインである川畑成美の顔は杏になってしまうのである。
 
 しかしまあそれらのキャスティングは、まるで映画が先で小説が後なのかと思うぐらいハマっていて、特に川畑成美の健康的で海が似合いそうな雰囲気は、杏以外に誰が適役やねんというぐらいハマっている。というわけで、登場人物のキャラクターの脳内映像化が簡単で労力を要さなかったために、スッとストーリーの中に引き込まれるような感覚があった。
 
 舞台は夏の海。玻璃ヶ浦(はりがうら)という寂れた観光地の家族経営旅館に湯川学が宿泊することから始まる。同時にこの旅館の家族の親戚でもある小学生、恭平くんも夏休みのために遊びに来ている。湯川学と恭平くんが意気投合し、夏休みの自由研究等の宿題を手伝ったりする場面が微笑ましい。たしか湯川学は子供嫌いのはずだったが、ガリレオシリーズも長期化し、湯川学も子供を許容できるように成長したということなのだろうか。
 
 ある日、同旅館に宿泊していたお客さんが死体で見つかった。事故で片付けようとする地元警察に警視庁から待ったが入り、お馴染み草薙刑事と湯川学の活躍が始まるわけだが、事件の展開的には今までにもないことはなかった展開なので新鮮さはない。実は何年も前に起こった殺人事件が絡んでいて、その秘密が湯川学の頭脳と草薙刑事の捜査によって紐解かれていく。何年も前の事件や出来事が絡んでいるというパターンはガリレオシリーズだけでなく東野圭吾ミステリーズにはよくあるパターンだが、今回の物語は夏の海の美しさや、新鮮で美味しそうな魚介類などが全編に登場するので飽きない。
 
 「家族を守るため」とか「愛する人を守るため」みたいなキーワードが出てくるけど、正直あんまりピンと来なかった。それなら『容疑者Xの献身』とか『麒麟の翼』(これは加賀恭一郎シリーズ)とかのほうがグッとくる。『真夏の方程式』は、奇しくも舞台の美しさが目立ってしまった感がある。だからと言ってはなんだが、映像化反対キャンペーン中の私であっても、映画を観てみたいなあと思ってしまった次第である(笑)。