親の気持ち子知らず

 昨晩、息子がなかなか寝付かずに部屋を走り回ったりしていたので、結構大きな声で叱り付け、まだダンボールが積み上げられたままの真っ暗な部屋へ放り込んでやった。

 扉の向こうで号泣している息子の声を、私は扉のすぐ前で息を殺してじっと聞いていたのだけど、その間に自分が子供の頃を思い出した。

 父親の右肩に抱えられ、近所の神社の裏の茂みに投げ捨てられたことがあった。真っ暗な上に神社というシチュエーションである。私はこれでもかというぐらいの大きな泣き声を上げたのだけど、大人のものすごい力にどうしようもなく、自分の非力さと恐怖でガタガタ泣きながら震えていた。

 その時のことはとてもハッキリと記憶に残っているのだけど、自分が「何をやらかした」のかは全く憶えていない。ただ、「めっちゃ怒られた」「怖かった」ということだけが私の脳裏に刻まれているのである。

 2歳になったばかりのまだまだアカンボウである。「何故自分が怒られているか」なんて理解できないだろう。つまり、今私が子供に対して行っていることは、「コレをしたら叱られる」という意味を教える本当の「しつけ」ではなく、大人がその力や威厳を子供に対して示し、そして自分でそれを確認しているだけで、ただ単に征服欲を満足させたいだけなのではないだろうか。もっと言うと「虐待」に近いかもしれない。

 結局息子は嫁に助け出されたのだけど、その後の息子が私を見る目つきが少し変わった。やはりビビられている。ビビらせるためにやったのに、実際に息子にそんな目で見られると、自責の念で一杯である。

 私の父親もそんなことを思ったのだろうか。その後2〜3日の間、父親の顔も見れないぐらいにビビっている私を見て、ホクホクしながら自分のエゴに浸っていたのか、それとも今の私のように自責の念で一杯だったのか。

 私が父の心を知らないのと同じで、息子も私の心を知らないだろう。ゆっくりと時が経つのを待つだけである。