『とんび』 重松清 角川文庫

 現在TBS系日曜日夜9時からやっているテレビドラマの原作。元々猛禽類が好きなので(笑)、このタイトルはドラマ化される前から本屋に行った際に目に付いていた。ところが内容は猛禽類のトビとは全く関係なく、「とんびが鷹を生む」という言葉からタイトルが付けられ、父と子の感動ドラマであるという。ちょっとこのテの物語は今はええかな…と敬遠していたのだが、テレビドラマ化されるとあって、「映像化反対派」の私としては、こりゃ早く読んでおかないと損をするかもなということで購入。
 
 舞台は昭和37年から始まる。不器用で真面目で破天荒で情に厚いヤスさんが主人公。昭和の物語にはよく登場する典型的な“頑固オヤジ”である。そのヤスさんに待望の男の子が生まれるも、奥さんを事故で亡くしてしまい、周りの協力を得ながら男手ひとつで子供を育て上げるヤスさんの生涯を描くお話。もうそれだけで目頭が熱くなる要素が満タンである。
 
 本の構成は12編あって、1話毎にヤスさんとその息子のアキラが成長していく過程で起こる様々な問題や出来事などを感動のエピソードで締めるというふうになっており、まさにドラマ化するには最高の原作である。最初からドラマ化を目指して書いたのではないかと思うぐらいに一つ一つのお話が綺麗にまとめられていて大変読みやすい。
 
 文章も堅苦しい表現や、回りくどい描写などほとんどなく、わかりやすい文章だった。登場人物のキャラクターがハッキリしているので、細かい人物描写や心境などをダラダラ書かなくても、脳内でキャラクターが簡単に想像できる。それぐらい『とんび』に登場する人物は親しみやすい。
 
 だから感情移入がハンパではなく、物語の中にスッと溶けこんでいける気がする。ヤスさんは時折矛盾したり意味不明の言動があるのだが、「わかるわかる」となる。ヤスさんが笑えばなんだかコッチも笑えるし、ヤスさんが怒ればコッチもなんだかカッカしてくる。そしてヤスさんが泣けば、コッチもぽろぽろと涙が出てくる。
 
 ストーリー自体はベタである。アキラが生まれてから小学校、中学校、高校、大学、就職、結婚…と成長する。謎解きがあるわけでもなく、ラストにどんでん返しがあるわけでもなく、読み進めると展開があらかた予想できてしまうぐらいベタなんだが、それがいい。“泣かせどころ”も「はいはいまた来ましたか」というぐらいベタなんだが、わざとそれに引っかかるぐらいの軽い心構えで読むといいと思う。

 子育て世代のパパにおすすめ。ただし、電車通勤される方は読まないほうがいいかも。涙が止まりません(笑)。