これをお読みの多くの皆さんは、吉井猛さんをご存知の方も多いと思う。関西のホビーレーサーの間では有名なレースアナウンサーだった。
先日、仕事帰りに実家の近所の自動販売機でビールを買おうとしたら先客がいた。もうすでに酩酊状態のじじいが、コインを入れるのにも怪しい手つきでワンカップを買っておったのだ。私はその様子を横で見ながら待っていた。一見浮浪者のようなそのじじいは、ガコンと出てきたワンカップをその場で開け、じゅるじゅると美味そうに呑んだ。
私が缶ビールを買っている間、じじいは私の服装と自転車を交互に見てこう言った。
「にいちゃん、自転車やってんのか」
「はい・・・」と応えると、「にいちゃん、吉井って知ってるか?」と訊いてきた。
私はすぐに、このじじいが言う「吉井」とは「吉井猛さん」のことだと理解して、「知ってます」と応えると、じじいはせきを切ったようにしゃべりだした。
「吉井はな、わしの後輩でな、わしが72やから吉井は71のはずや。おんなじ旭陽中学でな、ラグビーやってたんや。あいつは自転車で国体とか出てな、確かオリンピックにも行ったんちゃうか。にいちゃんの自転車見てな、わしピーーンときたんや」
酔っ払いのじじいが言うことなので、吉井さんの年齢や出身校や功績に信憑性はないが、それでも1本しかない前歯を巧みに操り嬉しそうに話すじじいがなんだか可愛くなってきて、私も吉井さんとの関係を話した。実家が近所で家族ぐるみで仲良くさせていただいてたこと、私の仕事の関係でお世話になったときのこと、自転車レースで実況していただいたことなど。
そして、去年の9月に癌で亡くなったこと。
そしたらそれを聞いたじじいが、「えっ…、あいつ死んだんか…」とつぶやき、なんと目に涙を浮かべてはらはらと泣き出すではないか。酔いも手伝って感情が高ぶったのだろうか。「そうか、死んだんか…」とワンカップの残りをぐいと呑み干し、ぼろぼろのママチャリを押して帰って行った。
じじいの知り合いの中では吉井さんが一番の有名人だったのだろう。それを知っている者と自動販売機の前で偶然出会い、有名人と知り合いであることを自慢し、そしてその貴重な有名人がいなくなったと知った。
およそ5分ほどの時間ではあったが、じじいにとっては久しぶりの感情の高ぶりと落ち込みだったのではないだろうか。とぼとぼと家路につくじじいを見てるとなんだかかわいそうになってきた。そもそも家なんてあるんだろうか。私はじじいを呼び止め、2本買った缶ビールのうち1本差し出した。
じじいは缶ビールを受け取ると、1本だけの前歯を見せてにこっと笑い、私に缶ビールを返してこう言った。
「わし、発泡酒は呑まんのや」
贅沢言うな~~ボケ~~~!
ごっつい落ちですね。(笑)
Auenoあにき、我ながらサイコーの出来やと自負しています(笑)。
ナイス、じじぃ・・・
あ、そろそろ、妄想激情も期待しております。
「成人式で再会編」なんて…
俺…着付けできんねん…とか…いかがっすか。。。
bfzあにき、ここは親戚も見てる可能性があるので自粛します(笑)。
うっとこ端麗専門やから、じじぃ腹立つ!
ロラあにき、発泡酒呑まんと言うおっさんはホンモノの酒飲みやと思います。
腹立つの通り越してちょっと恥ずかしかったです(笑)。