『友へ-チング-』 郭景澤 金重明 文春文庫

 次は何を読もうかと思い巡らしながらも本屋に行く機会がなかなか無く、なにげに自分の本棚を漁っていたら出てきた本。『シュリ』と共に韓国で大ヒットした映画の小説版。実は『シュリ』の小説版も持っていて、何を隠そう私は『シュリ』の大ファンである。こちらのほうは映画も観たし小説版も何度も読んだ。ところが『チング』に関しては全く記憶が無い。本は持っているのに読んだかどうかの記憶が無い。じゃあ読んでみるかと手に取った次第。
 
 4人の幼なじみのそれぞれの成長の過程を描き、それぞれの境遇で苦悩しながらも固い友情で結ばれているよ、というストーリー。半分ぐらいは原作者の実話で、当時を思い起こして描いている。スタンド・バイ・ミーみたいな感じかな。まあそんな爽やかな内容ではないけれど。もともと映画で大ヒットした作品なので、やはり小説にするとパンチ力が弱い。私の記憶に残らないのもムリはないと思った。どうしても『シュリ』と比べてしまうかな。『シュリ』は派手なアクションシーンや切ない恋愛が描かれていて、いかにもハリウッド的なエンターテイメントだったが、こちらはそういう派手さはない。
 
 でも、男の固い友情が底辺にあるので泣き所は多い。4人の中でも一番ケンカが強くてリーダー格だった奴が、大人になって麻薬に溺れヨレヨレになっているところを、4人の中で一番弱かった奴がおんぶして家に帰るというシーンがある。ケンカに負けて泣いている自分をおぶってくれた奴を、大人になって逆におんぶするという切なさに2人が泣くのだが、もらい泣きする。この本での泣き所はほとんどがもらい泣きである。
 
 我々日本人の韓国人に対する印象って人によっていろいろあると思うけど、なんか熱いよね。私はそう思う。すぐに感情がむき出しになるっていうか、日本人だって温情に溢れてるけど、韓国人のそれはハンパない感じがする。この小説にはおもくそにそれを感じる。ハリウッドに慣れた日本人は『シュリ』の方が合っていると思う。だけど韓国人には『チング』の方が合っているのかな。韓国では『シュリ』や『JSA』を抜いて『チング』が観客動員数を上回ったということでも証明されている。
 
 でもまあこれは小説。映画で成功したからって小説にしても成功するとは限らない。逆のパターンもしかり。★★☆☆☆でした。