『ノルウェイの森』 村上春樹 講談社

 恥ずかしながらこれまで『ノルウェイの森』を読んだことがなかった。確か私が高校生ぐらいの頃、CDシングルやらアルバムやらテレビ視聴率やらのランキングを発表する番組があって、書籍売上ランキング部門で何週も第1位に居座り続けた作品がこれだった。その頃は「へ~」ぐらいにしか思わなかったが、赤と緑の本はなんだか不思議と自分の記憶の中に残っていた。
 
 ここ数年で読書が好きになっていろんな作品を読んできたので、いつかは『ノルウェイの森』も読まないとな~と思ったけど、なんか機会がなくて今に至っていた。きっとたくさんの人がこの本を読んだだろうし、読書好きな友達に言えば貸してくれるだろうし、古本屋に行けばたくさん売っていることも知っていた。別に敬遠していたわけでもあまのじゃくなわけでもないけど、なんだか読まずにいた。まあこういうモンはタイミングである。そしてそのタイミングがやってきただけのことだ。
 
 この稀有なタイミングを大事にしたいと思ったので、私はわざと、友達に借りるとか古本を買うとかせずに、大型書店で新品を買った。超有名作家の超有名作品である。本気で向き合わないと失礼じゃないかなと思ったからだ。赤いシンプルな装幀の上巻を読み始めた時、なんか緊張してるなと感じた。まるで普段は着ることのない一張羅を着て、普段は入ることのない高級なレストランで、さあ今から食事をしようかという感じである。
 
 で、正直に—–ほんとこんなこと言うの恥ずかしいけど—–感想を言うと、「ようわからん」。やはり高級レストランの味は私にはようわからんかった。この作品は何度も何度も読み込んで、舌が肥えてからでないと深く理解出来ないのではないかと思う。
 
 高級な料理を、理解しよう理解しようと思いながら食べるのもひとつの食べ方だし、ただ単純にお腹がすいててたまたま目の前に高級料理があったという食べ方でもいい。私の場合はカッコつけて前者でいこうと思ってたけど、やっぱり後者でいくことにした。そしたら急に読むペースが上がってすらすらと読めた。上下巻合わせて約600頁の長編をたった2日半で読んでしまった。
 
 「なんじゃい、ワタナベ君のモテ期日記かい!」なんて気分で読んでるといい。エロいシーンを二度三度読み返し、ノルウェイの森をギター1本で弾いたらどんな感じなのか想像し、精神病ってどんなんかなーと思いながらでいい。テーブルマナーなんか気にせずに、好きなように開き直って食べたらお腹いっぱいになりました、でいいと思うし、そういう食べ方をした自分を褒めたい。
 
 誰しも19や20の頃は混沌としていた。将来とかセックスとか学業とか、いろんなものがごちゃまぜになって洗濯機の中でぐるぐると混ぜられて、なんやわからんうちに取り出されて干されて風にさらされ時間が過ぎ去っていった。それを40手前になってあの頃を思い出し、文章に出来る人が小説にしました。それだけの解釈でええんちゃうかと思う。今は。何年後かに読んだらまた味わいも変わるだろうし。そんなタイミングを静かに待ちたい。だからこの赤い本と緑の本は、輪ゴムでくくって大切に保管しておきたいと思う。
 
 個人的にはレイコさんが好き。レイコさんのギター聴いてみたいな。
 
 ★★★☆☆でした。また何年後かには評価が変わるでしょう。