親のエゴか

 先日、私が生まれ育った生家の前を通ると知らん間に更地になっていた。知らん間にというか、空き家のまま20年もほったらかしになってたし、隣に住む大家さんも随分前に亡くなられたということで、いつかは取り壊さないといけないということは聞いていたけど、いつになるかは知らなかったのだ。
 
 1階建ての木造長屋で、ビンボーを絵に描いたような狭い家だった。狭い家は更地になっても狭いと思った。あんなとこに4人も住んでいたのだからびっくりする。両親が離婚する中3まで住んでいて、それからは私が現在「実家」と呼んでいる家へオカンと弟と共に移り住んだ。
 
 離婚してからまもなくオトンが病気で死に、それ以来は父方の親戚とは疎遠になっていたので、生家がどうなったのか知る由もなかったけど、私が結婚して子供ができたことをキッカケに付き合いが復活し、実は生家は空き家のまま家賃だけをオトンの弟さん、つまり叔父さんが払い続けてくれていたということを知った時にはとても嬉しかった。
 
 2年ほど前の正月に、ヨメコドモを連れてその生家を訪れたことがある。驚いたのは、家財道具や遺影や仏壇だけでなく、水道もガスも電気もそのままで、すぐにでもそこに住めるように管理してくれていたことだった。子供の頃に書いた壁の落書きや、柱につけた背丈の傷、当時飼っていたウサギが齧ったタンスも置いてあった。そこへ大人になった自分が子供を連れてくるなんて、タイムスリップしたみたいで不思議な気分だった覚えがある。
 
 「更地になってたで」と、そんな話しをオカンにしていたら、フト何かを思い出したように、「あれはどないしたんかなあ」と言った。
 
 聞くと、純銀製のミニカーが20台ぐらいセットになった物だそうで、当時のビンボーな家庭が買えるような代物ではないほど高価だったと愚痴をこぼし始めた。「そんなもん買えるお金はない!」と言うオカンを無視してオトンがある日突然買ってきたのだと言う。それを聞いた時、私の幼い記憶の中に、ホクホクしてるオトンの顔と、半泣きでぶつぶつ言うてるオカンの顔が蘇った。そうやそうや。そんなことあったわ。
 
 すぐに叔父さんへ電話し、あのミニカーのセットはどうなったのか聞いてみた。
 
 「おお!あれか!あれはウチにあるで!お前のお父さんが死ぬ前に形見やと言うてオレにくれたんや!あれはお前がもらうべきや!取りにおいで!」と言ってくれた。
 
 今まで家賃や公共料金まで払い続けてくれた上に、更地にする費用も出さず、家財道具整理の手伝いもしなかったので、非常に恐縮して電話したのだが、叱られるどころか「よう思い出して電話してくれたわ~」と喜んでくれたのだ。もうなんちゅうか胸が一杯になって涙がぼろぼろこぼれた。
 
 欲するがままに無理して高価な物を買い、それを息子に受け継がせようとするなど、ただの親のエゴなのかもしれないが、火の車な我が家の家計から100万以上する自転車を買って「宗一郎に受け継がせる!」とアホなことを言っている自分にすっぽりと置き換えられるので、今になってオトンの気持ちが良くわかる。無念にも死ぬ前に息子に受け継がせられなかった気持ちもわかる。ふと純銀製のミニカーのことを思い出したオカンの気持ちも少しわかる。
 
 というわけで、仕事帰りに叔父さんの家へ寄り、頂いて来た。
 
 実際にはミニカーではなく、「偉大なる自動車100種」という、立派なアタッシュケースの中に並べられた純銀製のプレート100枚だった。当時ぶつぶつ言うてたくせに、男のロマンに対する女の記憶はテキトーなもんである。
 
 自宅に置いていても子供らがぐちゃぐちゃにしてしまうと思ってオカンに預けてきた。昔を思い出して涙の一つでも流すのかと思っていたら、意外にもというかやっぱりというか、当時の腹立たしさが蘇って来たのかぶつぶつと言い出した。さらに、帰宅してからこの一件の話をヨメにしてみたら、これまた意外にもというかやっぱりというか、「ふ~ん」と一言で済まされた。
 
 形見というものは、その品物が何であれ贈る側はものすごい思い入れを込めている。しかし、受け取る側はその思い入れを正しく受信できる確率は非常に低い。特に、贈る側と贈られる側の性別が変わると、その深さを伝えるのは至難の技である。もし私が本当にコルナゴを買う時が来たらそのへんは十分に注意したい。
 
 ともあれ、正直言って純銀製のプレートなど私にとっては無用の長物ではあるが、その思い入れだけは普通に手渡されるよりも深く鮮明に伝わった。オトンの遺志は20年の時を経て、ようやく私に正しく受け継がれたのではないだろうかと考えている。
 
 叔父さんのところに引っ越したオトンの遺影にもうすぐ3人目が生まれることを報告していたら、また涙がこぼれてきて恥ずかしかった。
 
100105_2022~01

親のエゴか” への6件のフィードバック

  1. ヤフオクに出してコルナゴにとか思ったらあきませんよ笑。

  2. ●ロラアニキ
    出品した暁には連絡しますんで、価格吊り上げよろしくお願いします。
    間違って落札しないように注意してください(笑)。

  3. Mアニキ、あけましておめでとうございます。
    所詮女性には男のロマンが分からん生きもんやと、50年も
    生きてると嫌と言うほど感じます(笑)
    今年も宜しくお願いします。

  4. ●さかじいアニキ
    あけましておめでとうございます!
    あんまり無理にわかり合おうとするとストレス出てきますよね。
    男のロマンは男のみの特権、、、ということにしましょうか(笑)。

  5. 今、おばあちゃんとこに有った写真屋古いアルバムを出してきてパソコンに取り込んでます。
    流れ作業のように淡々とこなして行かな写真に見入ってしまい進みません。
    その当時は大した事で無くても思い出が重なると重いものになりますね。
    今年もよろしく。

  6. ●AUenoアニキ
    今年も宜しくお願いします。
    多分たくさん写真があるんでしょうね。写真好きのアニキのことやから、作業が難航するのは容易に想像できますね(笑)。
    思い出に値段が付けれたら、ボクは今頃フェラーリ乗ってるでしょう。

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