けいさつのひと

 自分が違反者や加害者となって警察のお世話になることは当然のことだが、被害者としてお世話になることもできることなら避けたい。車庫証明の提出だけで十分である。
 
 しかし、「警察のお世話をしてあげる」ことは、私にとってカナリ嬉しいことなのだ。毎日代わり映えのない日常を送っている庶民に対して、聞き込み調査なんかをされるとまるで自分が事件の関係者になれたかのようにドキドキワクワクしてしまう。ホンマの事件関係者の方々には申し訳ないけど。
 
 職業柄、ひき逃げや当て逃げ、検問突破等のクルマに関する事件事故の捜査をしている刑事さんが来店されることがタマにある。私はこの時だけを生き甲斐にしていると言っても過言ではない。犯人が残したクルマのパーツの一部を見せられて「これは何の車種ですか?」と聞かれるのだが、一目見ただけで車種がわかったとしても、カナリもったいぶった挙句、警察が恐らく必要としていない(もしくはすでに判明している)ことまで答える。
 
 「う~ん。これはFITの可能性が高いですねえ。しかもこれは旧型FITの後期モデル、リヤのテールランプがLEDになったタイプです。汚れ具合からして初年度登録の割には相当走行距離は伸びてますね。恐らく毎日決まった道を通勤している可能性があります。もしくは営業車でしょうか。しかしこのタイプは一番販売台数が多いタイプですから、探すのには骨が折れますねえ・・・・」
 
 警察の人は真面目である。私が言った、おそらく不要な情報まできっちりとメモするのである。そのメモも、なんかの広告の裏を集めてクリップで留めたようなお粗末なモノで、手の中に納まってしまいそうに短くなった鉛筆で細かく書くのである。お前はコロンボか。
 
 「もし心当たりのある車両が修理等で入庫したら警察までご一報願います!」と言って去って行く刑事さんを見送ると、顧客からのクレーム電話により、私はすぐに日常へ引き戻されるのである。