今日は何故か早めに会社に着いた。自転車を降りると、知らないおばちゃんが声をかけてきた。
「ホンダの方ですか?」「はいそうですけど」。そう答えるとおばちゃんは息セキ切ったように、「かおりちゃんがオタクの会社の中に逃げ込んだんです!」と言う。・・・かおりちゃん?ハテナな顔をしている僕におばちゃんは我にかえって状況を説明した。
「かおりちゃん」というのはインコの名前で、そのインコがウチの店の中に迷い込んだらしい。早速会社のカギを開けてかおりちゃんのところまで・・・。窓の枠にとまっているインコはちょっと高そうなインコだった。「かおりちゃん、かおりちゃん・・・」と言いながらおばちゃんは近寄って行くが、残念ながらかおりちゃんはどこかへ飛び立って行った。「どうもすいませんでした・・・」とおばちゃんは半泣きになりながら、かおりちゃんの飛んでいった方向を見ながら走って行った。
僕の経験上、「かおり」と言う名の女性(メス)は一度取り逃がすと二度と戻って来ない。高校時代に片想いしていた1つ上の先輩が「かおり」という名前だった(サッカー部のヤツにとられた彼女ではない)。彼女にはとてもお似合いの同級生の彼氏(つまり僕の先輩)がいて、僕なんかには遠く及ばない憧れの存在だった。
しかしその先輩カップルが破局の危機になった。これはチャンスということで僕はラブレターを書いた。後にも先にもこれ以外にラブレターを書いたことはない。考えに考えて時間をかけて書いたが、時間をかけすぎて先輩は卒業旅行に行ってしまった。まあ、帰って来てから渡そうと思っていたのだが甘かった。その卒業スキー旅行で先輩カップルはヨリを戻していたのである。ラブレターを渡したときに知らされた。「もう少し早く言ってくれたら・・・。あたしM君のことけっこう好きだったのに・・・」 得意の妄想ではない。実話だ。
今思い出しても胸が苦しくなる青春の1ページである。僕は高校時代、失恋ばかりしていた。
それ以来、冗談でもなんでもなく、「かおり」という名の女性に対して緊張してしまうようになった。「かおり」という名の女性の友達は何人かいるが、その女性をGETしているダンナ、もしくは彼氏のことを尊敬してしまうほどだ。
鳥カゴと、「かおりちゃん」の好物と思われるエサの袋をかかえてフラフラと走って行くおばちゃんの背中を見ていると、ふとそんなことを思い出してしまった。