私が高校3年の頃、昨日紹介した友人と、とある焼肉屋でアルバイトをしていた。その頃私達はなかなか進路を決めかねていたのだが、2人ともクルマやバイクが好きだからという理由で(今思い返すと人生のターニングポイントだというのにいいかげんな動機である)、ホンダ学園にしようかと考えが固まって来ていた。
そんなハナシを焼肉屋の社長に話すと、
「趣味なんか仕事にしたって儲からへん。クルマやバイクは趣味で置いといて、2人ともウチで働け」と言われた。社長の人生経験の中からの貴重なアドバイスであるとは思ったが、当時はその言葉に対して何かピンと来るものがなく、お断りさせていただいた。
それから2人はホンダ学園に入学し、今に至るわけであるが、友人の方はともかく、私の方は仕事に慣れてくるに従い、「この技術を生かして自分で商売したら儲かるんちゃうん」というシタゴコロが沸いてきた。
半年ぐらいの期間ではあったが、私は一人でクルマ屋の真似事程度の店を開いたことがある。借金をする前にと思いやめてしまったが、この半年間はとても勉強になった。たくさんのことを学んだが、一番の発見は、私は商売に向いていないということである。それは単純に「仕入や営業がヘタ」ということではない(もちろんそれもある)。
自分が手掛けたクルマを買ってくれるお客さんに対して、私は甘すぎたのだ。私が手間ヒマかけてレストアしたクルマを、「キレイだね」とか「カッコイイね」とか言ってくれる人から、原価以上にお金を取ろうと思えなかったのである。自分の商品を買ってもらい、気に入ってもらい、また来店してくれるような人に、利益優先で商談することなんて出来ない。しかもクルマに対して思い入れが強すぎて、クルマを商品として捉えることができなかった(実際、クルマ屋の経営者の多くはクルマに対して愛着が無い。それは成功の秘訣とも言える)。私はクールでドライなように見られることが多いが、本当はホットでウェットなのだ。
私はこのとき初めて、焼肉屋の社長が言った言葉の意味を理解することが出来た。
好きが高じて仕事にするというパターンはたくさんあるが、趣味と実益を両立するということは本当に難しいと思う。好きなことを仕事にすると、どうしても商売上重要な「妥協」というものにストレスを感じてしまう。ひとつの商品をこだわってこだわって作り、それに思い入れを強く感じるお店っていうのは、消費者からすれば魅力的かもしれないが、商売的にはあまり儲からないことが多い。
そういうお客さん思いのお店は、すぐに大きく儲かりはしないだろうが、細く長く続いて行くと思う。しかしその為には、自分の信念を貫いて行けるだけの、太い幹のような根性と岩のような忍耐が不可欠だ(私にはそれが欠けていたのかもしれない)。そんなお店を続けている経営者に、私は敬意を表する。
現在雇われの身となっているが、私は満足している。そこにあるべきものが、そこに収まっただけのことである。