父へ 息子へ

 昨日の晩、息子を寝かし付けると私も一緒に眠たくなって9時過ぎに寝てしまった。

 夜中の3時ごろに泣き声で起こされ、息子はすぐに寝付いたが、私はそのまま眠れなくなってしまった。

 気持ちよさそうに眠る息子の寝顔をじっと見ていた。

 掛け布団から大きく投げ出された小さな手のひらに、私の人差し指をそっと乗せると、そのやわらかくて小さな手は、静かに、ゆっくりと、それでいて力強く、私の指を握ってくる。

 そして、なかなか離そうとしない。

 まるで、私を逃がさないようにしているようだ。

 無意識の内に私の手を握り、私を頼りきっているかのような、私を信じきっているような、そんな子供を見ていると胸がとても熱くなる。

 この小さな手はすぐに大きくなり、私の手を必要としなくなるだろう。

 私と手をつなぐことなんてなくなるだろう。

 私と同じことを、きっと私の父も思っていたに違いない。


 母のいない時を見計らって、父が訪ねて来た時、私は
 「会ってはいけないから・・・」と言って玄関の扉を開けなかった。

 弟が「誰が来たん?」と聞いても「知らない人だ」と答えた。

 それ以来、一度も会うことなく、父は他界した。

 葬式にも行かなかった。

 墓参りも行かなかった。

 なんて親不孝者だろうかと思う。


 いずれ息子に、同じことをされても仕方が無いだろう。

 だけど、息子がこうやって手を握ってくれている間は、私の全力をもって、私の命を懸けて、守ってやろう。

 それが父に対してのせめてもの罪滅ぼしだと思う。


 息子よ、私の手を離すな。