ネジと私

 クルマのメカニックという仕事を始めて1年目の頃だったと思う。「自分はこれから一体どれだけの数のネジを回すことになるのだろう」と、しょーもないことを考えた。

 クルマという「機械」にはご存知の通り、たくさんの数と種類の「ボルト」「ナット」「ビス」の、いわゆる「ネジ」が使われており、それらを緩めたり、締めたり、調整したりしてクルマを正常な状態にするのが私の仕事である。言い換えれば「ネジを回す」ことが私の仕事でもあると言っても過言ではない(・・・と思う)。

 乗用車の場合、例えばタイヤを4本外すだけで16本(クルマによっては20本)のホイールナットを緩める。そして当然再び締める。コレだけで私は32回も「ネジを回した」ことになるわけで、日常生活でこれだけネジを回すことなんて無いだろう。

 私は子供の頃から「ネジ」が好きだった。

 買ってもらったオモチャなどネジというネジを回しまくった。「これ以上回したらバカになるんちゃうか」「このネジ外したらアカンやろ〜」みたいな危険予知能力も無い子供のやることだから、元通りに組み立てられなかった回数など数知れず。

 それでも父親の工具箱からいろんな種類の「ネジ回し」を手に取る度に、もう、ネジを回したくて回したくて仕方が無かった。

 今思えば「ネジと私」の関係は、その頃から確立されていたのかもしれない。

 この仕事は10年程になるが、幸いなことに今のところ「ネジを回し飽きた」ということは無い。これからもたくさんのネジを回すことになるだろう。

 アタマのネジを除けば、私に回せないネジは無い。