接客は難しい

 クルマでガソリンスタンドに入る。アルバイトの店員が声を掛けてくる。

 「エンジンルーム点検しましょうか?」

 こう声を掛けてくる店員のほとんどは働きだして間もない若い店員である。おそらく先輩社員に「給油に来たお客様全員に声を掛けること」なんて教えられたことを忠実に実行しているのだと思う。

 私も入社1年目の頃は先輩に言われたものである。

 「言われた部品だけを交換しているようではダメだ。こちらからお勧めしないといけない」

 若くて素直だったその頃の私は、来店されるお客さんに所構わず声を掛けまくった。しかし、私の術中にハマるような客は10人中1人いるかいないかぐらいの確率で、ほとんどがそっけない態度で断られたり、中にはこちらに対して明らかに敵意丸出しで「ひつこいんじゃ!」と言わんばかりに帰って行く客もいた。

 接客にも慣れてくると、「このお客さんは声掛けたらアカンな」とか「このお客さんはイケるな」とかいう「コツ」みたいなのをつかんできて、「数撃ちゃ当たる作戦」は後輩に譲ることになる。

 そんな健気なガソリンスタンドのアルバイト店員を見ていると、なんだか昔の自分を見ているようで思わず、

 「どーぞどーぞ点検してくださいな」

 と言ってしまうのである。

 エンジンルームをまじまじと点検したその店員は言う。

 「エンジンオイル汚れてますよ」(おとつい交換したとこやっちゅうねん)
 「ラジエター液交換時期ですよ」(オーバーヒートしてないからええっちゅうねん)
 「ワイパーゴムキャンペーンやってます」(だから何やねん)
 「水アカ付いてるんで洗車どうですか」(ほっとけ)
 「タイヤローテーションしましょうか」(自分でやるわ)

 機関銃のようにしゃべりまくった店員は、ようやく私がホンダプリモのツナギを着ているのに気付き、バツの悪そうな顔をする。私はこの瞬間の顔が大好きだ(性格悪い?)。

 まあまあその調子で頑張りたまえ。良い接客のブレーキになるのは「先入観」だから。

 エラソーに。