想定の範囲外

 息子が急に熱を出した。嫁のツワリも相変わらず治まらない。断腸の思いでリッツはキャンセルすることにした。しかしこんな形で私の「みなぎりの秋」が終わるとは思わなかった。

 今回のリッツに関しては、いろんな妄想をした。落車してケガをしてしまうばかりか自転車まで壊してしまい落ち込む・・・とか、スタートで焦ってビンディングペダルを踏み外してしまう・・・とか、行きのクルマで事故に遭う・・・とか、どれだけ頑張っても、もう心臓が口から飛び出してしまうぐらいに最大心拍を超えるぐらいに頑張っても追い付かなくて引き離されて行く・・・とか、とにかくいろんなパターンの最悪の状況を妄想しておけば、まさかその通りにはならないだろうという、超庶民的な考え方である。

 人生において、「まさかこんなことになるとは」ということはよくある。自分が想像もしなかった展開に、躊躇し、高揚し、落胆し、狂喜したりする。それがあるからこそ人生っておもしろいのだと思う。

 バレー部だった高校の引退試合の時、私は試合中に足首をねん挫してしまい、燃え尽きること無く負けてしまった。こんなこと試合前に誰が想像しただろうか。逆に言うと「想像しておけばこんなことにはならなかった」のである。

 ツールでステージ優勝した新人ライダーはインタビューによくこう答える。「こんなことになるなんて夢みたいだよ!信じられない!神様が思いもよらないプレゼントをしてくれたんだ!」

 だから私は「1位になる」なんて、全く、絶対、死んでも考えないようにしていた。表彰台の一番上で「夢みたいです!信じられない!」とインタビューに答えている自分の姿などを妄想してしまっては、それは「そうならない」ことを意味しているからだ。妄想癖のある私にとって至難のワザである。

 しかしこれだけいろんなことを考えていても、息子が熱を出すということは妄想するのを忘れていた。私の妄想レベルもまだまだである。ていうか単純に父親失格である。

 私の代走はイノウエさんにお願いした。急なことで本当に申し訳無い。イノウエさんが落車してケガをしないように、落車してケガをしてしまうところを妄想しておきます。