現在、とあるクルマを修理でお預かりしている。所謂「コテコテ走り屋仕様」のシビックで、その若いお客さんは「左のホイールベアリングを交換して欲しい」と言う。
普通なら「はいそうですか」とそのまま預かって、小一時間ほどで交換してしまい、すぐに納車するという流れになる。もしくは「改造車なので当店では修理することはできません」とお断りする。
どちらも正規ディーラーのメカニックとして正しいことをやっていると思う。「やれ」と言われたことを素直に「やる」とか、正しいルールの中で仕事をし、出来ることと出来ないことをお客さんに説明するということは、普通の会社員として当然のことだと思うし、会社員として長く続ける為には非常に重要なことではないかと思う。
しかし私にはそれが出来ないのだ。
「なんで左のホイールベアリングだけ交換するの?」から始まり、「右は交換せんでええのん?」とか「その異音はいつから鳴り出したん?」「普段はどんな走り方してるの?」「ちょっと試運転させてもらっていい?」などなど、根掘り葉掘りいろんなことを聞いてしまうのである。
クルマ屋で働く従業員である前に、一人の「クルマ好き」として聞きたいことを聞く。こう言うと聞こえは良いが、さっさと言われた作業だけをやってしまった方が会社的には良いに決まっている。クルマに対する1円にもならない「コダワリ」を持っているが故に、さらに面倒な仕事に足を突っ込んでいる自分に嫌気が指すことだってある。
結局、走行中の「ゴォォーー」っという異音はホイールベアリングからではなく、ミッション内部からだということがわかった。ミッションオーバーホールで10万近くの修理になることは必至である。全国の走り屋に共通している「カネが無い」という理由でこの修理はしないことになりそうな雰囲気である。
今回もまた後悔するのだ。「カネにならないことをやってしまった」と。
そしてまた一人増えるのだ。クルマ好きで貧乏なお客さんが。