人生やり直し機

 確かドラえもんの道具の中に、そんな名前の道具があったと思う。今の記憶や経験や能力はそのままに、カラダだけが幼少の頃に戻り、もう一度人生をやり直せるというものだった。私がのび太と同じくらいの歳の頃、その話を読んで「人生やり直し機」がとても欲しくなったことがある。

 現在は、良い仕事に就き、良い嫁をもらい、かわいい子供に恵まれ、いまのところは特に「人生やり直し機」の必要性は感じないが、それでも歳若くして活躍するアスリート達を見ていると、「真面目に練習しといたらよかったなあ。こんなとき人生やり直し機があったらなあ」と思うことがある。

 大人(それも30前後という「おっさん」に片足突っ込んでる年齢)になってから自転車にハマる人は多い。私もその例に当てはまる。なぜその年齢に多いかという考察はハナシが長くなりそうなので割愛するが、とにかく多い。木馬に集まる自転車好きも大体同じくらいの年代である(だからカラオケでは異様に盛り上がる)。

 そんなおっさん予備軍達はある程度の稼ぎがあるから、決して安価ではない自転車やパーツを購入することができる。そしてツーリングやレースなどに参加し、自転車の楽しみに目覚めたその瞬間、欲しくなるのである。「人生やり直し機」が。

 幼い頃から自転車が好きで、中学で自転車競技に目覚め、自転車部がある高校に進学し、大学ではオリンピック選手に選ばれ、卒業と同時にヨーロッパのチームからスカウトされ、ツールドフランスに出場し、マイヨジョーヌに3日間ほど袖を通す・・・。

 今の自転車に対する情熱が失われることなく、幼少に戻ることが可能ならば、きっとこんな夢物語も現実のものになるのではないだろうか。

 自分の子供に高価な自転車を与え、嫌がるその手を引いてレースに出場させ、成績が悪ければ周りなどお構いなしに罵声を浴びせる。きっとそんな親達は「人生やり直し機」が欲しくて欲しくてたまらないのだと思う。子供の人生を使って自分の人生をやり直している。同じく「人生やり直し機」に憧れる一人として、その気持ちの10分の1くらいはわからないでもない。

 しかし、人生は過去に遡るものではない。未来へ向かって切り開くものである。「人生やり直し機」を欲してしまうことのないように、「今を全力で」行こうよ。

 きっと藤子不二雄が言いたかったことはコレだと思う。