小さなことからコツコツと

 私が愛用している自転車「ケルビム号」は、息子が生まれる2〜3日前に納車されたから、もう1年と5ヵ月の付き合いである。その間、いろんな消耗部品やパーツのグレードアップなどを重ね、そしていろんな所へツーリングやレースなどに行き、今や私が所有したことのある「モノ」の中で1位2位を争う愛着の湧きようである。

 回転木馬様により完璧に組み上げられた私のケルビム号は、決して丁寧とは言い難い取り扱いにも関わらず、故障らしい故障を一度もしたことが無い。非常に調子良く走ってくれるので「自分が最速や!」っていう妄想に取り憑かれるのもムリはない。イヤホント、クロモリが大好きになるよ。マジで。

 それでも1年以上も乗っていると、故障とまではいかないにしろ、ある程度の「コツ」みたいなものが必要になってきた。私のケルビム号に至っては、フロントの変速ワイヤーが伸びたのか何なのか、フロントインナーで走行中に後ろのギヤを重くしていくとチェーンがカラカラと音をたてる。左のシフトレバーを微妙に操作してその音が出ないようにすれば何の問題も無く走行できるので、ディレイラーの調整などする気も起こらないし、修理に持って行く気もしない。

 自転車だけに限らず、クルマやバイク、テレビやラジカセ、その他様々な「機械モノ」というヤツは、昨日今日買って来たばかりならともかく、長く使っていたり古くなってきたりすると、どうしてもそんな「コツ」みたいなものが必要になってくる。大抵の人々はそれを「故障」ではなく「コツ」としてとらえ、「まあ別に不便じゃないし」とか「いちいち修理に出すほど新しいわけでもないし」という理由で済ませてしまうのである。

 他人から見れば不便極まりない「コツ」も、本人にとっては「自分専用」とか「オレしか使いこなせないんだぜ」などの、ある意味「自己満足」もしくは「自慢」になってくるのだからタチが悪い。例えば、某自転車屋さんが10年以上愛用している某旧型日産車は、もう随分前からドアロックの調子が悪いにもかかわらず「あっ、そのドアロックちょっとコツがいるねん。ははは。」などと言いながら、嬉しそうにコチョコチョと他人にはわからない秘密の「ワザ」でドアロックを解除する。私が以前乗っていたミニクーパーはウェーバーキャブレターのせいで、エンジンをかけるのがなかなか困難で、ある一定の「儀式」が必要であった。高校生の頃乗っていたNSRを自分専用にするべく、わざわざチェンジペダルのリンクの取り付け位置を変更して「逆シフト」にし、一人で悦に浸ったものだ。でもそれが「機械好き」にとって「ヨロコビ」だったりするのである。

 「コツ」なんて無いに越したことはない。もともと「コツ」が必要なようには製造されているハズがなく、誰が使っても使いやすいように作られているのが当然である。だけど私は「コツ」は必要だと思う。もちろんそれは、製造過程で用意された人工的なものではなく、長年使用している内に自然に発生するものでなくてはならない。

 みなさんが愛用している「モノ」の中に、「コツ」が必要なものがありますか?

 それがたとえ「小さなコツ」でも、「モノ」を愛する「小さな一歩」なのです。