ガーベラ

season21-01
 高校時代の親友の話。
 
 彼は当時仲良くしていた我々グループのへたれ的存在であったにもかかわらず、20代前半にしてグループの中で一番最初に結婚することになった。それを聞いた時にはそこにいた全員が自分の耳を疑ったほどである。色々と馴れ初めを聞いていると彼の方からの猛アタックにより成就したとのことで、その方法とは花束を贈り続けたのだと言う。
 
 そんな古典的な方法で・・・・と彼をバカにしたものだが、「やはり女性には花束が一番効果的や!」と、高校時代は一切自分の意見を述べなかった彼が自信たっぷりに訴え、しかもそれが実際に成功しているという裏付けもあったことから、我々の間では一時期、「お目当ての女性へのプレゼントはとりあえず花束」が流行ったぐらいである。
 
 彼女の好きな花はガーベラ。花の名前などほとんど知らない私であるが、このエピソードの印象が強いのか何故かガーベラだけはよく覚えていて、花屋でガーベラを見るたびに、幸せそうな彼ら夫婦の顔を思い出すのである。
 
 しかし時の流れは残酷で、色々とあって離婚することになった。
 
 住んでいた京都の家に奥さんと小さな子供を残し、彼が引き払うことになったので、荷物の運び出しの手伝いも兼ねて訪問することになった。親友として、そして仲良く付き合っていた頃を知る者として、奥さんに対してどんな顔で会いに行けばいいのだろうと思案したものだが、まあそこは冗談の通じる親友だと思い、私はガーベラの花束を買って訪問したのである。
 
 ところが、ガーベラを持って玄関先に現れた私を見るや否や、彼は私を両手で押し返して玄関ドアを後ろ手に閉め、小声ではあるが強い口調で、
 
 「それはアカン・・・・!」
 
 と言ったのである。今思うと、離婚により精神的に参っている女性に対してかなりブラックなジョークだったなと思うが、その時はこんな冗談もわからないようになってしまったかと少々残念に思いながら、あえなく「とりあえず花束作戦」はお蔵入りとなったのである。
 
 荷物の運び出しも終わり、奥さんに「元気出してや」とだけ挨拶し、その家を後にしたのだが、困ったことにガーベラの花束だけが私の手元にある。どうしたものかと考えた挙句、捨ててしまうよりは誰かにあげたほうが良かろうと思い、「今から10人目にすれ違った人に突然プレゼントする」ルールを発動。それが男でも女でも、とりあえず10人目の人にあげてしまおうと決めたのだった。
 
 きっと不審がられることであろう。その時はなんとか理由を説明して、とにかく持って帰ってもらおうと心に決めた。ある意味ナンパよりも度胸のいるこのゲームを自分自身に課したのである。
 
 そして、10人目にすれ違った人が、今の私の奥さんである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 (この物語は、途中からフィクションですw)