『プリンセス・トヨトミ』 万城目学 文春文庫

 国家予算の無駄遣いがないかを検査する会計検査院の3人が、大阪のとある社団法人の検査をすることによって、ものすごい事実に遭遇するというお話し。大阪には「大阪国」なる独立した国家が存在し、大阪国総理大臣や大阪国会議事堂などもある。しかもそれらは大阪の男性のみの中で完全に秘密にされ、豊臣家の末裔である女性を400年も守り続けているという、ぶっ飛んだストーリーである。
 
 壮大なファンタジーという部類に入ると思うのだが、舞台が私のよく知る大阪市内であるので、大阪市内の建物や、大阪人特有の人間性の描写などがやけにリアルに感じられてしまい、ファンタジーとリアルの境界線が自分の中で曖昧になってきちんと物語の世界に身を投じることができなかった。
 
 作者は大阪出身とのことで、かなり大阪を愛しているとみた。さらに細かく取材をしているのがよく感じられる。通天閣の天気予報、大正区の渡し船、「片付ける」を「なおす」と言う大阪弁のくだり、上町台地の坂道、南北を「筋」、東西を「通り」と呼ぶ碁盤の目・・・・。直接ストーリーとは関係ないにも関わらず、これでもか!と言わんばかりに大阪の特徴を紹介してくださるので、大阪人の私にとっては、「もうええやん」ぐらいのお腹いっぱい度合いであった。
 
 あまりにも大阪のことを良いように書くので、逆にこの人は大阪出身ではないのじゃないかと思ったぐらいだ。ほんとに大阪出身なら照れもあってここまで書けないものだと思う。400年もの間に渡って大阪の秘密を守り続けているという設定も無理が感じられる。だいたい大阪の男は「しゃべり」なのである。喋り倒してナンボの大阪人が、400年も秘密を守り続けられるわけがない。この人は本当に大阪のことを知ってるのか?という感じ。「他府県出身だけど大阪が好きすぎて大阪のことをくまなく調べました」的な匂いがするのだ。
 
 最後のストーリーのまとめ方も、ゴリ押し、根性包み、無理矢理感が否めない。大阪人ならオチを大切にするはずなのだが、こんなむりくりまとめにかかったオチにしてしまうなんて、「この人ほんまに大阪の人?」である。逆に大阪人に突っ込みどころを残しておく手法なのかなと思うぐらい。
 
 登場人物の個性あふれるキャラクターの書き分けは上手だなと思った。あとがきにあるエッセイもなかなか良かった。大阪を愛してやまない姿が微笑ましい。しかし作者が「巨人ファン」であることに、少なからずの衝撃を受け、本を閉じました(笑)。