再読。実は従妹に借りて読んだことがあったのに記憶から消え去り、古本屋でついつい手に取ってしまった。読み進めているうちに、「あれ?読んだことある?」となった次第である。初めてこの作品を読んだときは、何が面白いのか理解できなかったけど、今回良くも悪くも再読したことによってその良さがわかった。それだけでも再読の意味があったと思う。
カード破産や、戸籍乗っ取りに関しての記述がかなり詳細で、ちょっとくどい部分もあるにはあるが、クレジット時代に一石を投じる作品だったのだなと思う。しかしそれは重箱の隅をつつくようなことで、本当の面白さは、「犯人が最後まで登場しない」ことだった。
行方をくらませながら逃げ続ける犯人を、追いかける者の目線で書くことにより、犯人像を読者に想像させ、足取りや動機を描いていく。それがとても丁寧で緻密で、読者のほうも「早く犯人に会いたい!」となる。
したがって、初読のときは「なんじゃい!これで終わりかい!」と思ったラストシーンも、再読であった今回は許容することができた。むしろ、このあとに犯人のセリフや描写のシーンがあったとしても、これまで追ってきた刑事の経緯を再び書き連ねるだけにもなりかねない。そんな野暮ったいことをするぐらいなら、スパっと終わったほうが良いのだろう。
宮部みゆき作品は、恥ずかしながらまだ『火車』しか読んだことがないので、ほかの作品ではどんな感じなのか知る由もないけど、文章が女性らしくてとても丁寧だなと感じた。わかりやすいぐらいの伏線がきちんと等間隔に散りばめられ、盛り上がりとクールダウンも等間隔。そしてラストは潔く勇気ある終わり方。いかにも女性らしいと思う。他の作品も読んでみたいと思った。
余談だが、物語の中に大阪球場が登場する。なんばにあった野球場で、取り壊される前は住宅展示場となった。昔、阪神高速環状線を頻繁に走行してたことがあって、そこからいつも見えていた。懐かしい気分になって嬉しかった。