『白夜行』 『幻夜』 東野圭吾 集英社

 再読。東野圭吾では最も素晴らしい大作として評価されるこの2作。『幻夜』は『白夜行』の続編か否かということでファンの間で論議されることがあるが、私の個人的な意見としては、「そりゃ続編やろ」と思う。でもまあこの2作品が続編であるか否かなんて、それこそまさに重箱の隅をつっつくようなもんで、独立した2つの作品と見たとしてもそれぞれが読み応えのある壮大なストーリーとなっている。
 
 『白夜行』は男女2人の幼なじみが、自分たちの犯した罪をひたすら隠蔽していく。それらが非常に巧みで、罠にはめられていく登場人物も多種多様。よくこんな展開が思いつくなあと感心する。舞台はオイルショックの頃の大阪から始まり、阪神タイガース優勝であるとかスーパーマリオ発売であるとかバブル崩壊であるとかに進んでいく。その舞台と時代背景が、私自身が今に至るまでの時代と完全にかぶるので、そういう意味でも物語にものすごく引き込まれていく。
 
 特徴的なのは、幼なじみの2人である「雪穂と亮司」が文中ではほとんど顔を合わさないことである。電話で会話するシーンもない。2人が様々な事件を隠蔽していくにあたって、間違いなくどこかで相談なり作戦会議なりをしているはずなのに、そういう部分が一切でてこない。それが逆に2人の絆を強く表現していて、間違いなく犯罪を犯している2人に対してなんだか同情する気持ちも芽生えてしまう。同情というか、ものすごいことをやってのけるスーパースターを見てるような感じかな。尊敬するみたいな。
 
 『幻夜』のストーリーも大まかには同じで、男女2人が自分を守るために罪を重ね、それを巧みな裏工作で切り抜けてゆく。ところが『白夜行』と違うのは、完全に男が女に操られているところである。前作とは違って男女はしょっちゅう顔も合わすし会話もする。男は女に決定的な弱みを握られていて、それを隠し通すために女に協力することを約束するのだ。
 
 続編かどうかを決定するのは、『白夜行』で登場した「雪穂」が、『幻夜』で登場する女「美冬」が同一人物かどうかにかかってるわけだが、文中にはそれを決定付けるものは何もない。たぶんそうやろなー程度のもので確定ではない。読者の想像に委ねられる部分である。共通点はたくさんあるので同一人物と考えてほぼ間違いないと思うけど、あまりにも雪穂と美冬の性格やら言葉数が異なるので、単純に同一人物にしてしまうのは違和感があるのも事実。でも最初にも書いたように、同一人物であるかどうかがこの物語のメインではない。
 
 両作品に共通するのが、なんかこの女は怪しいと勘付いて独自に捜査を始める人間がいること。物語が進むにつれて核心に迫っていくのだが、とにかく非常に悲しいラストが待っている。涙が出るとかそういう悲しさじゃない。女に尽くす男の末路に言葉をなくすし、自分の人生の為なら女はここまで冷徹になれるのかと思う。両作品とも「惚れたもん負け」みたいなところがある。
 
 すでにドラマ化や映画化され、そちらの方もなかなか評判が良かったようなので、機会があれば観てみたい。両作品とも当然★★★★★でした。