考え事

 先日仕事でこんなことがあった。

 来店されたお客さんにオイル交換を依頼されたのでクルマに乗り込むと、後部座席にチャイルドシートが2つもついていて、そこには双子と思われる子供がすやすやと眠っていた。そのお客さんは子供を置いて店内に入ろうとしていたので私はそれを呼び止め、「眠っているのにかわいそうだけど連れて行ってもらえますか」と言った。オイル交換はカーリフトで車両を高々と持ち上げて作業するので、もしものことを想定して必ずお客さんにはお願いすることである。

 別にイヤそうな顔をするでもなく、せっせと自分の子供を起こしチャイルドシートから降ろしてくださったので、私はその間に作業の準備をしようと、少しの間そのクルマから離れた。

 作業準備を終え、クルマに戻るとお客さんはすでに店内に入って行くところだったので私はそのままクルマに乗り、ピットまで移動させた。リフトで車両を一番上まで上げ、オイルを抜き、オイルフィルターを交換し、リフトを下げオイルを規定量入れた。そしてクルマをピットから出そうと後ろを振り向いたとき、私はびっくりして「うわっ!」と言ってしまった。

 双子の内の一人がチャイルドシートに座ったままだったのである。

 その子供はすでに起きていた。私の方を不思議そうにじっと見つめ、笑うでもなく、泣き出すでもなく、なんだか意識の無いような目つきだった。

 その子は障害児だったのである。私は障害児のことについては無知なので良くわからないが、どうやら運動神経に障害があるようで、おそらくチャイルドシートに乗せたり降ろしたりという作業が健常児よりも随分手間がかかるのだと思う。

 ピットからショールームに目をやると、片方の健常児はお父さんと一緒にチャイルドコーナーで遊んでいる。

 その瞬間、私のアタマの中でいろんなことがごちゃごちゃになり、その後のクルマの移動や伝票発行やお客さんへの引渡しなどの残った仕事を他のサービスマンに任せて、自分は詰め所の椅子に座り込んでしまった。

 気付かずに作業していた自分の注意力の無さ。思わず「うわっ!」と言ってしまった自分の愚かさ。障害児を育てることの大変さ。「かわいそう」なんていう他人のキレイ事。もしその障害児を作業前に見つけていたら、お客さんに「降ろしてあげて下さい」と言えただろうか。もし自分がお客さんと同じ立場だったらどうするだろうか。

 そして何よりも、健常児はお父さんと楽しそうに遊んで、障害児はクルマに取り残されているという事実。自分がクルマに取り残されているという事実を彼は認識しているのだろうか。そもそもそんな感情にまでも障害が及んでいるのだろうか。

 ワケがわからなくなってしまった。私のアタマの許容範囲を越える出来事だった。

 不謹慎なことに「自分の子供が健常児で良かった」と思ってしまった自分が情けない。