とあるお客さんの家にクルマを引き取りに行った。70歳近いと思われるおじいちゃん。1年に500kmも乗らない置きっぱなしのクルマなのに、点検や車検やオイル交換をキチンと依頼してくれる。「悪いところは全部交換しといてや」って悪いところ無いよ。
納車の際、おじいちゃんは「まあ上がってお茶でも」と言って私を家に招き入れた。早く帰社したかったのだが、話し相手もいないのだろうと思ってよばれることにした。
聞くところによると、奥様を病気で数年前に亡くされてから息子さんと2人暮らしなのだそうだ。その息子さんも出張が多くてあまり帰って来ないらしい。「男所帯やから・・・」と言いながら不器用な手付きで入れてくれたコーヒーはマズかった。
私も、もし嫁に先立たれたらどうしようか。そんなことを考えてしまった。家事育児なんて何も出来ない私が、歳をとってコーヒーを入れたらこんな味になるのではないだろうか。
その日帰宅したら、嫁が餃子を作って私の帰りを待っていた。中身も皮も全部手作りだそうで、昼ぐらいからせっせと作ったらしい。少々誇らしげな顔で言っていた。
仕事でそんなことがあったところである。何か感謝の気持ちを言葉にしようかなと思ったが、普段言い慣れていないものだから、
「ヒマやったんか」
と言ってしまった。
途端に嫁は不機嫌になった。愛情表現のつもりだったんだけど。
まあもともと他人だった2人である。言葉が無くても分かり合えるようになるまでにはもっと時間が必要なのかもしれない。