いい日旅立ち

 いつも私のアタマをカットしてくれるナスビ君が、3月末でヘアーサロンミツワを退職し、新しいお店に行ってしまうということだったので、先日挨拶も兼ねて散髪してきた。彼は私より6歳か7歳ほど若いのだけど、同じ技術職ということもあってか色々と話が弾む。

 彼は非常に勉強熱心である。

 アップスタイルや編込みの技術を習得するべく、仕事が終わってから夜遅くまで講習に行ったり、街行く女性に声をかけ(ナンパではないらしい)ヘアモデルになってもらったり、精力的に活動している。

 私も彼と同じくらいの年の頃、いろんなことを勉強し、会社で行かせてくれる講習や研修などはほとんど参加し、資格という資格を取りまくった時期があった。何故あの頃はそんなに知識や技術習得に貪欲だったのかよくわからないけど、とにかく「知ってること」を増やしたかったのだと思う。技術職においては「知ってること」「出来ること」が増えれば増えるほど、エライもんだと思っていた。自分が知っているのに他人が知らないことがあれば、それだけで勝手に格差をつけて自分が心理的優位に立とうとしていたのかもしれない。

 ナスビ君が私と同じかと言うとそうでもないだろうが、技術職を始めて数年が経ち、ある程度自分の実力と他人の実力を見分けることが出来るようになってきたら、みんなそうなるのではないだろうか。

 自分の実力を過剰評価してしまって、会社の方針やレベルに不満が出て来たり、他人と衝突したり、自分のこれからの未来を想像して言い知れぬ不安に陥ったりするのもこの時期じゃないかと思う。「オレって井の中の蛙とちゃうか?」みたいな。

 だけど、新しい技術や環境を求めて勉強するのはとても良い事だ。それが将来役に立つか立たないかは別にしても、頑張って勉強した時期というものは今後の自分の大きな自信に繋がってくる。

 私はタダの客だから、話し慣れた理容師がいなくなるということは残念だけど、同じ技術者として言うなら、今回の彼の転職には大賛成である。いろんな所でいろんな経験を積んで技術者として一回りも二回りも大きくなって頂きたい。

 そして、その頃には白髪がもっと増えているであろう私のアタマを、ナウでヤングにして頂きたい。ナスビくん、頑張って下さい!