『風の歌を聴け』 村上春樹 講談社

 村上春樹初心者の私が手にとった2作目はデビュー作。村上春樹を無理に好きになろうとはしていないが、前に読んだ『ノルウェイの森』ではきちんと理解できなかったという惨敗感が残ってしまったのは事実。デビュー作なら入口にはちょうどいいかなという理由と、薄っぺらくてすぐに読めてしまいそうという理由と、古本屋で安かったからと理由で選んだ。
 
 大学生である主人公のひと夏の経験を語り綴ったもので、なんだか『ノルウェイの森』に似ている。特にきっちりとしたストーリーはなくて、主人公が鼠という友達とジェイズ・バーで飲んでいるかと思ったら急にラジオのDJが喋りだし、そしてまた急にデレク・ハートフィールドの話題になったりする。自由である。まるで酔っているときに思いつくままに書いたような感じ。
 
 こんな読者のことを無視して自分のやりたいよいうにやっている作品のどこがいいのかわからないが、ついつい引き込まれてしまうこの魅力はなんだろうか。
 
 私はミステリーが好きで色々と読んだ。ミステリーはきちんとしたストーリーがあって、謎が隠されてて、登場人物たちが絡みあって、そして最後に全ての謎が解かれる。まるで最終的に解答がきちんと用意されている数学みたいなもんだ。問題に取り組んでいるときは必死だし引き込まれるし時間が経つのを忘れる。
 
 村上春樹をそんな心構えで読むと必ず失敗する。明確な解答がないのに必死で問題を解いたって解きようがない。裏切られる。それこそ酒を飲みながら、何も考えずにただ文章に目を通すような読み方でいいのだろう。必死に紐解いてみてもそこには答えはないし、そんなことをするのはそもそもダサいことなのかもしれない。
 
 「読書」と言うと、当然のことながら「文字を読んで物語を理解する」ということになろうが、もっと自由でええねんなと思う。ミステリーは一度読了するとストーリーもオチもわかってしまっているから再読する気にはなかなかなれないけど、こういった作品は、いろんな気分の時にいろんな場所で何度も読むのがいいかもしれない。コートのポケットに入れておいて、5分でも時間が空いたらペラペラと頁をめくる。ミステリーではまとまった自由時間とシラフな頭脳を用意してからでないと楽しめない。
 
 この本は、私に新しい読書のやり方を教えてくれた気がする。本のオススメ度なんかを★の数で評価するのはダサいんだなということも。

『風の歌を聴け』 村上春樹 講談社” への4件のフィードバック

  1. 鼠とジェイは村上本にたびたび出てくるのでそのうち親近感わきますよと書いていたらお腹いたくなってきたのでトイレ行ってきます。

  2. そうなんですねー。鼠と蝉は伊坂幸太郎にも出てきました。歌の題名がやたら出てくるところとかも似てますので、たぶん影響されてるのでしょうね。

  3. 20代そこそこのころに好きでΩ事件以前の作品は全て読みました。絶対的な評価はできんと思います。面白いとか面白くないとか。今でも時々読み返しますが感受性豊かだったころとはやっぱ印象が違いますね。今の若手は少なからず彼の影響を受けていると思われますが、いずれも延長線上にあるとしか思えません。。NEW天才プリーズ。もう一杯ハイボールプリーズ。

  4. にしやん、村上春樹の書評を書くのはほんとに難しい。人それぞれに感じ方が違うので、読んで感じたことをそのまま書くと、自分はアホに思われるのではないかという恐怖感がある(まあええねんけど)。
    ネットで『風の歌を聴け』の感想文を書いてる人のブログを色々と探してみたけど、上手な人はほんと上手。「そうそう!オレが言いたかったのコレコレ!」みたいな。この作品は喪失感いっぱいやね。

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